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時の運と人の縁を究める!!【Samsul's Choice】
   
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『取締役』 − 相次ぐ悲劇から学ぶ "人生の幸福" 術 −

1998年05月08日

(野村正樹著、光文社、1998年 4月25日発行)

<簡単な内容紹介>
この本は、空気清浄機や高性能浄水器などで急成長するベンチャー企業、株式会社カンキョーの藤村靖之社長が書かれた本です。小松製作所の研究室長であった藤村さんが起業したきっかけ、自社の経営理念、人材育成法、今後のあるべき企業像、起業のヒントなどを、御自身の豊富な経験にもとづいて述べられています。あたかも社長の五分間スピーチを聞いているような感じで、非常に読みやすいです。成功するベンチャー企業に必要なのは、確固とした理念と柔軟な姿勢、人間を中心に据えた耐えざる研鑽である、ということが、この本全体を通じて強力に伝わってきました。

ついちょっと前までは、「取締役」というと、雲の上のような存在に感じたものですが(少なくとも私は)、最近、取締役の不祥事、解任、逮捕劇が頻繁に報道されるようになり、少しずつ身近に感じられるようになってきました。最近急増している若手のベンチャー企業であれば、20代、10代の取締役も珍しくありません。ですが、いざ取締役と言っても、その中身がどうなっているのか、となると、案外わからないことが多いのではないかと思います。

そこで、手っ取り早く、しかも読みやすくてわかりやすい本を探すなら、今回御紹介する本がおすすめできます。

まず、取締役には、部長職以下には与えられていない多大な権利が与えられているわけですが、その大きな違いは、

・ 部長職以下  =  雇用契約で守られた「従業員」
・ 取締役    =  委任契約で結ばれた「経営者」

という点にあるかと思います。

つまり取締役は、会社と委任関係にあり、会社経営を任せられた人であるということになります。簡単に言えば、会社(=株主)が、経営のプロをよんできて、その人(=取締役)に会社経営を委託している、ということになるわけです。

「経営のプロ」であるわけですから、大きな権限をもつと同時に、重い責任も伴ってきます。しかしながら、権限ばかりがイメージされ、責任の部分についてはあまり表だって語られることがない、と。そしてそこにこそ、取締役をめぐって繰り返される様々な悲劇の原因があるのだ、と著者は述べています。

どんな悲劇が待ち受けているのかについては、これでもか、これでもかという感じでまとめられていますので、ここでは割愛します。逆に、成功事例としては、一例として富士ゼロックスをとりあげています。ここの取締役の方々は非常に有能で行動力もあり、取締役に与えられた「大きな権限」が、実にうまく活かされた好例として挙げられています。

しかしながら、そのような例は非常に少ないと著者は言います。いろいろな苦労と惨劇が待っているため、やみくもに取締役を目指すことに疑念を呈しているわけです。幸福の尺度、自分の人生の中で達成したいことは、人により異なります。にもかかわらず、出世だけが第一だ、というムードに乗せられてしまっていないか? というのが本書の主張です。

ただ、こうして著者は、「会社の出世」と「私生活の充実」を、相対するものと位置づけているのですが、本当にそう言えるのでしょうか。私は、必ずしもそうとは言い切れないのではないかと思います。こういう単純化は、昔からのおきまりの文句という感じがして、陳腐感はぬぐえません。

例えば、マイクロソフト日本法人の成毛社長や、元マッキンゼー代表の大前研一氏などは、会社の出世を実現しつつも、自分自身の自己実現や、家庭重視の姿勢を貫かれていることで知られています。他にもそういう方はいらっしゃるはずです。このお二方だけが例外だ、というわけではないでしょう。

私が本書を通じて感じたことは、なによりも重要なこととして、

「○○になる」(e.g.「取締役に就任する」)

↓      ↓      ↓

「どう生きる」
(取締役への就任は、それを体現させるために必要な様々な手段のうちの、一つにすぎない)


つまり、自分の人生をつくる上で、

「既存のカタログから選ぶ」 → 「自分でカタログをつくる」

ということです。

この本を読む限りでは、取締役になったことが発端で悲劇に直面したという人の多くは、「取締役への出世の道を邁進することが、人生の幸福につながる」と盲信したがゆえのことであるように思いました。つまり「会社の出世」が「私生活の充実」という目的を達成させるための手段である人にとっては、会社のトップになったからと言って、必ずしも悲劇を味わっているとは限らない、と私は思うのです。そのへんのところの言及が欠けているため、本書全体の主張が過度に単純化されてしまっている感があります。この点ちょっと残念です。

もう一点、残念に思った箇所があります。物事を分析していくと、必ず良い部分と悪い部分が見つかるものです。本書でも、取締役分析をしているわけですが、最初のうちは、取締役の実態をさぐるため、その良い部分と悪い部分の両側面を眺めてみましょう、というスタンスであったはずが、読み進めていくうちに、次第に取締役の悪い部分ばかりに視点が傾いていきます。傾きが予想以上に大きいので、私など「おやおやっ」と思ってしまいました。

著者は、社内でも優秀な働きぶりを見せ、順調な出世をされていたようです。 しかし、サラリーマンと作家との二足のわらじ生活を過ごされたのち、途中で退社されます。「意図的に取締役への道を絶った」と言うのですが、この本を読んでいると、取締役の悲劇的な部分ばかりに目がいくので、著者は実は取締役にならなかった(なれなかった?)ことに人一倍の未練があるのではないか、などと余計な詮索をしたくなるほど(失礼。ちょっとこれは言い過ぎでしたね)でした。

(取締役とは、そんなにひどい存在なのでしょうか? 私は実態を見聞きしたことがないので、よく知らないのです。どなたか、何か御存知の方は、ぜひ教えて下さい)

本書の背景に流れる大きな主題は、やはり「受動から能動へ」「主体的に生きよう」ということです。しかし、取締役を基点にして出世と人生を語るという視点。なかなか面白いと思います。ああ、こういう見方もあるのか、と感心しました。社内の出世を目指す人も、そうでない人も、仕事と人生というテーマに関心のある方は、ぜひご一読をおすすめします。

なお、今回の本は、取締役をめぐる「実態調査」+「生き方論」となっていますが、取締役の法律的な詳細部分については、『取締役の法律知識』(中島茂著、日経文庫、1995年)がおすすめです。読むのに多少苦労するものの、わかりやすくまとめられています。

☆ 著者略歴 ☆
1944年、神戸市生まれ。慶應義塾大学卒。67年、サントリー入社。営業部、宣伝部、マーケティング部などに在籍して活躍。79年、流行語「シティ・ウォッチング」を提唱する。86年『殺意のバカンス』で作家デビュー。91年『シンデレラの朝』で日本文芸大賞現代文学賞受賞。94年、サントリーミュージアム「天保山」開館を推進。広報部長に就任する。95年、選択定年制度によりサントリーを退社。現在、NML野村オフィス代表として、マーケティング、広告、トレンド、世代論、推理小説などの著作、講演活動に専念する。

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