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「 ダイムラー・ベンツとクライスラー 」

1998年06月20日

先月、ダイムラー・ベンツとクライスラーとの合併が発表されました。また今月に入ると、ロールス・ロイス・モーターカーズがフォルクスワーゲンに売却され、最後のイギリス資本の自動車メーカーが消滅するという事態を迎えています。みなさんは、これをどのように御覧になったでしょうか? 消費者サイドとしては、「より安いもの」「よりこだわりのあるもの」を求めているのに対し、生産者サイドとしては、それに応えようとはしつつも、「どんなに良いものも売れなくては話にならん」という苛立ちがあるのではないでしょうか。このジレンマは、「現代」という時代の一つの象徴的な出来事なのではないかと私は思いました。

先日、車で六本木を走っていたら、巨大な黒塗りのクラシックカーを目撃しました。車に見とれて、いったいどんな人が運転しているのだろうと思い、運転席に目をやると、一見紳士風の方が乗っていました。車に合わせるかのように、黒のスーツに黒の帽子をかぶり、これまた、車のイメージにマッチした、ひげをたくわえていて、なにやら特異な感じを漂わせていました。

そんな車を見ていると、その「現代という時代」を超越したような車体設計と独特の雰囲気にひかれてしまいます。どうしても気になってしまい、翌日雑誌で調べてみました。その結果、どうやら戦前の、しかも1930年代の車らしいことがわかりました。おそらく、ロールス・ロイスか、ビュイックではないかと思います。写真で見るのと、実物を見るのとでは、だいぶ印象が違うなぁと思いました。実物には、歴史の積み重ねを感じさせる、特有の迫力があります。

その「場を圧倒する迫力」の源はどこにあるのだろうかと考えたとき、私がまず最初に思ったのは、「時間」と「空間」ということです。時間と空間を超越しているかに見えたことから、そう感じたのですが、よくよく考えてみると、人間は、その時代の価値観から完全に自由になることはできません。そう考えると「車」というものは、その時代の価値観、時間、空間などの反映だと言えるのではないでしょうか。車の製作にあたった戦前の人たちの「車造りにかける想い」は、今の人たちとはだいぶ異なっているはずです。

例えば1950年代、60年代のアメリカの車を見ると、豊かさを謳歌した頃のアメリカ時代を彷彿とさせるものがあります。例えばカローラのような大衆車がヒットした背景にも、高度経済成長時代のいわゆる「大衆性」というものを感じることができます。イタリア車には、いわゆるイタリアらしさを感じさせるものがありますし、ドイツ車からは、いわゆるドイツらしさが感じられるものがあります。時代や場所の反映であると考えれば、おそらく50年代、60年代のアメリカ車を今から日本でつくろうとしても、あれだけのスケールを持った車は、容易にはつくれないような気がします。至難の業かもしれません。当時のアメリカだったからこそつくることのできた車だったのだと思います。

先月、ダイムラー・ベンツとクライスラーとの合併が発表されました。また今月に入ると、ロールス・ロイス・モーターカーズがフォルクスワーゲンに売却され、最後のイギリス資本の自動車メーカーが消滅するという事態を迎えています。

クライスラーがアメリカ的な大衆車路線を歩んでいるのに対し、ダイムラー・ベンツは徹底して品質にこだわる「最善か、無か」という高級車路線を。フォルクスワーゲンが、まさにその社名の通り、[ フォルクスのワーゲン ] = [ 国民車 大衆車 ] 路線を行くのに対し、ロールス・ロイスは手作りの職人技の高級車路線を歩んできました。

「売れる車」が大事なのか、「良い車」が大事なのか。「安い車」が良いのか、「哲学ある車」が良いのか。それともそれらの両立は可能なのか。ここにはいろいろと考えさせられるところがありそうです。

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