『経営の達人になるヒント』

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(澤田光明著、光文社、1998年 6月30日発行)
☆ 今回のポイント ☆ <簡単な内容紹介>
より良い経営とは何か、それはどうしたらできるようになるのか、という内容の本です。松下幸之助と三澤千代治の両社長の下で働いた経験から得たものを、まとめています。経営者の評伝は多くありますが、それらと異なるのは、実際におつきあいをしてきた経験をもとに自らの考えを加味して経営術としてまとめている点です。


かつてビスマルクが「凡人は自分の失敗に学ぶが、私は他人の失敗に学ぶ」と言ったことは有名ですが、他人の失敗に学ぶための格好の材料の一つに人物評論があります。一般に「人物伝」や「評伝」のたぐいは、それなりにドラマがあり、また人それぞれにとって学ぶべき箇所もあることから、多くの人に読まれます。
見習うべき所の多い人、インパクトの大きい人ほどたくさんの本が書かれますね。 例えば田中角栄元首相は、死後数年が経過する今でも数多くの本が出版されています。しかし、現在の首相に関する本は一冊もありません。前首相はもちろん、野党である民主党や自由党の党首に関する評伝があるにもかかわらずです。
経営者の評伝を見ると、政治家のものよりも多くの本が出版されていることがわかります。経営者やサラリーマン諸氏にとっては、政治家よりも経営者にこそ、見習うべきところ、見習いやすく実践しやすい点が多く発見できるからなのかもしれません。
経営者の評伝は多くありますが、今回御紹介する本がそれらと異なるのは、ただ単に紙の上での取材や、インタビューだけをもとに構成したものではなく、実際におつきあいをし、ともに力を合わせて働いてきたという、そういう生の経験をもとにしていること、そして、自らの考えを加味して「自分の行動と思考との結果としての経営術」としてまとめている点です。正確には人物伝ではありませんが、人物伝の要素と生の体験とをうまく混ぜ合わせた本になっています。
ちょっと紹介しましょう。
著者の澤田氏によると、両氏に仕えてきた結果わかったことの一つとして、優れた経営者に共通する資質として「ABCD資質」を挙げています。
☆ < ABCD資質 >
A:aspire or ambition 
 「念ずれば花ひらく」。使命感と信念に裏打ちされた野望を。
B:believe
 使命感に支えられた決意の下、自分を信じ自分に妥協しない。
C:conduct
 従業員が自主性と創造性を発揮できる環境を。公平な指揮を。
D:do
 百の理論より一つの実践。失敗を恐れず。只今其時、其時只今。
また、松下、三澤両氏は、今でこそ経営の神様、経営のプロといった眼差しを受けるものの、最初からそうであったわけではないと言います。それはあたりまえの話だとは思いますが、では両氏がプロになっていく背景には何があったのか、そこを著者は、
・エネルギッシュなリーダーシップ
・強烈なハングリー精神の下支え
・飽くなき好奇心と努力、旺盛な勇気
に求めています。それに加えて、何よりも大きな点として、
「能力や実力は与えられるものではなく、自分でかち取るものだ」
という信念が、両者には力強く存在していたことを強調しています。
これ以外にも、じかに見てきた人間だからこそ言える、様々な話が紹介されています。
著者の澤田氏は「二人とも一代で大企業をつくった創業者だ。一人でスタートラインに立ち、数々の困難を乗り越えてきた。」と言います。そして、 「二人を間近で見てきて、つくづく私とは違うなあと思った。やはり創業者はすごい。情熱、根性、執念……いろいろな表現ができるが、精神的な強さが並みはずれている。同じ社長でも創業社長とサラリーマン社長はどうしても違う。コツコツ一から積み上げて登りつめた人物と、すでにできあがった組織の階段を上ってきた人物は精神的エネルギーの面で差が出る」と書いています。
一つ一つの言葉が実に実感あふれるものとなっています。本書の大きな特徴です。松下幸之助氏は時代的には過去の人ですから、実務面で現代の経営にはあまり有益な点は無いのではないか、精神面でのヒントはあるかもしれないが……、という向きもあるでしょう。
この本では、そういう類の話はあまり多く紹介されていません。ここ数年で大きく注目されたり取り上げられるようになったことがらを、両者は既に数十年前から、こんなふうに実践していたんですよ、という紹介の仕方をしています。
例えば事業部制やカンパニー制の話があります。松下氏が事業部制をつくりあげる経緯や、三澤氏が事業部制を導入する経緯などについて紹介されています。また、これも最近ですが「サラリーマンは独立経営者だ」という言われ方がよくなされます。これについても数十年前から松下氏が語ってこられ、その真意はどこにあったのか、ということが紹介されています。
私の見る限り、著者の澤田氏は徹底してナンバーツーであることにこだわっている方であるように見受けられました。優等生的な印象が強いのですが、「悪き優等生」というよりは「良き優等生」というイメージです。上の人を心から尊敬し、その一挙手一投足を良く見ています。そして真似すべきところはどんどん率先して真似をして吸収しています。貴重面で責任感があり、誠実な印象を受けます(実際にもそういう方なのかな?)。創業経営者の対等なパートナーとしては、適任の人材だったのではないでしょうか。
この本で面白い点をもう一点挙げると、人間関係を非常に重視しているということです。こびへつらう意味ではなく、心をつかみ、心をゆさぶり、共に楽しむにはどうしたらよいか、という意味での人間関係です。実務面でのアドバイスもあるのですが、本書の実に90%のページが「人」に割かれているのです。全215ページ中、約94ページが人間関係に割り当てられています。これは意図してかどうかはわかりませんが、著者の几帳面な姿(読んでいると、よく伝わってくるのです)から察すると、意図したのではないかと思います。それだけ人間関係が重要だということですね。
経営者に面と向かって「リーダーシップとは何でしょうか」とインタビューしたものをまとめても、あまり面白くない場合があります。この本の場合、実際に部下として「どのようにして両氏に心を揺り動かされ、仕事に取り組む姿勢を教えられたか」という具体例がちりばめられているので、エピソードとしても、とても興味深く読むことができました。
ただその反面、やはりマイナス面に関する指摘は書かれていません。その人のマイナス面からこそ、その方の本当の姿、本当の実力が垣間見えてくるような気がするので、その点はちょっと残念です。でもそれは望み過ぎなのかも知れませんね。
☆ 目次 ☆
プロローグ: 二人の創業経営者に学べ
第1章  : 心をつかみ、人を動かす
第2章  : 情報を手繰り寄せる力
第3章  : 事を成し遂げる哲学
第4章  : 企業体質を強化する
☆ 著者略歴 ☆
1932年、広島県生まれ。山梨大学工学部卒業。松下電工入社。木材事業部長、住宅設備機器事業部長を務めた後、ミサワホーム専務、副社長を経て、ミサワホーム総合研究所社長となる。1997年退社後は全国各地で講演活動などを行っている。

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