「各企業トップの年頭挨拶を見てみると……(99年版) 」

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毎年仕事始めのときに、各企業のトップは社員に向けて年頭の挨拶を行います。皆さんの会社では、どのような社長挨拶が行われたのでしょうか。また、もし経営者の方であれば、社員の方々に向けて、どのような抱負をお話しされましたでしょうか。
ちょうど1年前、本誌 <[Samsul’s Choice] No.13(98.1.23)> コラムで、社長挨拶の分析を試みたことがあります。年始の社長挨拶は、地に足のついていない言葉、ふわふわした言葉が一人歩きしているだけ。あまり中身は無い、という見方もあります。そうした場合、社長挨拶分析は、あまり意味のない作業であるということになります。
ですが、時代は明らかに変わりつつあると私は感じています。つまり社長は、社員を鼓舞して奮い立たせるだけのパワーを持った、中身のある挨拶を、「自分の言葉」で語りかけることが重要になっていると思います。その重要度は、ここ数年で急速に増しているように感じます。
企業の具体的な方針が挨拶の中に組み込まれるようになってきているのです。社長挨拶分析が、時代精神をつかみとったり、企業の戦略をうかがい知るためにも、ある程度意味のある作業になってきたのではないかということです。もちろん企業別の詳細な戦略まではわかりません。ただ日本の企業全体のムードをうかがい知るには参考になりそうです。
参考のために、昨年のコラムを本誌に再掲しておきました。御覧いただくと分かるように、近年声高に言われているビジネス環境に関する論調が、実は昨年の社長挨拶分析をしただけで既に見えていたことがおわかりいただけると思います。


概観するにあたって材料にしたのは複数の新聞とメールニュースです。各紙で年頭挨拶の簡単な要約が紹介されます。あわせて約 100社の社長の挨拶を概観してみました。
基調路線は昨年とほぼ変わらないと言えそうです。ただ昨年と異なるのは、危機感がより一層増しているということです。ただ言葉だけを並べて危機を表現するというのではなく、言葉そのものに切迫感と重みがあることが特徴です。のっぴきならない事態に直面していることを正直に吐露しているように見受けられます。コスト削減やリストラといった手法が、以前とは違って、もはや「小手先の手段」と見なされるほどの危機状況に堕してしまったと見ても良いでしょう。
経営に関する限り「何もしないことが罪になる時代」になってしまったわけです。社長挨拶は昨年の反省から今年を展望するというスタイルをとりますので、昨年の社長挨拶は2年前の反省を語ります。2年前に法を犯して評判を落としたり、経済実績を落としたりした会社は、マスコミやその他の人々にそっぽを向かれるかたちとなりました。ところが、昨年は、何もしないことが会社の評判を落とし、経済実績を落とすことになったわけです。またマスコミやその他の人々だけでなく、経済市場そのものからもそっぽを向かれるということが如実にわかってきたということなのだと思います。
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いろいろな社長の年頭挨拶を読んでいく中で、比較的目に付いた、今年の「時代のキーワード」になりそうな言葉を8個、ピックアップしてみます。

● 危機意識の共有
● 安心と信頼
● 企業全体の再編と体質強化
● 企業単位のみではなく、グループ企業全体のグループ力も視野に
● 社員一人一人の活動と人材の徹底活用
● 価値と収益力の向上
● 変革のときこそチャンス
● スピードとコミュニケーション力と実行力

これらのキーワードから読みとれるのは、おおよそ以下の三点ではないかと思います。
1.グループ企業の連結を重視した、質実剛健経営へ
2.大胆な改革を絶えず速いスピードで実施し続ける体制へ
3.個人の力と組織の力のすりあわせをより強固に

では、それぞれについて、社長挨拶の御紹介をまじえながら見ていきたいと思います。
1.グループ企業の連結を重視した、質実剛健経営へ

コメントの中で大変目立ったのは、グループ企業全体を連結させた業績を重視しようとしていること。そして、本来の本業に専念して、むだを省き、着実に堅実にやっていこうという姿勢でした。やみくもに成長をねらうのではなく、企業の構造や体質そのものを変えることにより、今後も永続的に利益を生み出すことができるようなシステムに作りかえていこうということです。これに関連するコメントとして、以下の9社を御紹介しておきます。
■太平洋セメント:木村道夫社長
「変化に対する機敏かつ柔軟な対応を可能とする組織・システムの構築が今まで以上に求められている」
■三井不動産:岩沙弘道社長
 「連結ベースで企業が評価される時代を迎え、今年を「グループ経営元年」にしたい。三井不動産グループ総体として伸びていく仕組みを考える必要がある」
■味の素:江頭邦雄社長
 「本格的に連結経営を開始する年」「グループ全体の総合力アップにつながる改革を」
■日清製粉:正田修社長
 「企業は連結ベースで運営・評価されることもあり、全事業が収益をあげ、勝ち組にならねばならない」
■電通:成田豊社長
 「業績にあわせ柔軟に対応できる経営体質への転換が必要」
■東急エージェンシー:新井喜美夫社長
 「社会全体が新時代に向けて、時代に適さなくなったモノを大整理していく『大掃除の一年』になるだろう。『時代の大晦日』とも言える」
■三菱マテリアル:秋元勇巳社長
 「収益体質の改善を図り、カンパニー制を軌道に乗せて資本効率を向上させる」
■川崎製鉄:江本寛治社長
 「グループ全体に実力を備えたい」「収益力確保と連結重視を主眼とする」
■シチズン時計:春田博社長
 「今年の最重要課題は収益力の強化。その第一歩は全社員が現在の事態の深刻さを正しく認識し、お互いに危機感を共有すること」
■光洋精工:井上博司社長
 「今年を『構造改革の年』と位置づけ、『高収益企業への転換』『グループ経営の強化』『地球環境問題への対応』にスピードを上げて取り組む」

2.大胆な改革を絶えず速いスピードで実施し続ける体制へ

地道に着実に経営していくことの重要性が語られる反面で「常に変わり続けること」も、多くの経営者が指摘されていたことです。昨年は「守りの姿勢ではいけない」という論調が見られたのですが、今回の挨拶を見ると「現状の否定を前提とする」という強い態度が感じられます。これに関連するコメントとして、以下の10社を御紹介しておきます。
■KDD:西本正社長
 「守りの論理を展開するだけでは、現状維持も危ういと考えるべきだ」
■バンダイ:茂木隆社長
 「社会現象と言われるようなヒットを出すことがバンダイの使命」
■富士写真フイルム:宗雪雅幸社長
 「重要なのはスピードとタイミング。過去にとらわれない大胆な改革も不可欠。痛みを伴うとしても、これを実行しなければ我々の未来はない」
■キッコーマン:茂木友三郎社長
 「時代の変化を予見し、変貌する市場に適応するための変革を断行しなければならない」
■山之内製薬:小野田正愛社長
 「真の競争相手は、時間でありコストだ」
■東急建設:井原国芳社長
 「逆行こそチャンスだと開き直ってほしい」「ひるむことなく勇気を持って挑戦しよう」
■東京急行電鉄:清水仁社長
 「苦境の原因を外に求めず己に求め、危機を変革のチャンスとして行動を起こすべきだ」
■新キャタピラー三菱:河合清和社長
 「環境は一層厳しくなるだろう。しかし、変化の厳しい環境の中にこそ、大きなチャンスがある」
■ニコン:吉田庄一郎社長
 「痛みを覚悟で事業構造を変革し、経営体質の強化に取り組む」
■川崎重工業:亀井俊郎社長
 「従来の業務のやり方の延長線上では達成できないことを十分認識してほしい。現状の否定が基本思想だ」
■ダイキン工業:井上礼之社長
 「最重要課題は、経営体質の抜本的改革を断固実行しようということに尽きる」

3.個人の力と組織の力のすりあわせをより強固に

会社の成長を底辺で支えるのは、一人ひとりの社員です。会社を根底から変化させ、しかも迅速に動かなければならないとなると、社員一人ひとりの活躍が不可欠になります。昨年の挨拶にも社員に協力をよびかけるものがありましたが、今年の場合、より具体的になっているようです。社員それぞれが自覚を深めて活動することが、会社の業績にプラスにはたらくこと。そのことが、昨年一年間の企業活動を通じて、どの会社にも今まで以上に実感できたからなのかも知れません。
これについては、個人がより努力をして知恵を出し合うことが必要になりますが、一方で、会社に必要となるのは、個人の頑張りをもっともっと促すための制度や土壌造りです。また、個人の努力が会社組織の業績に反映されるような仕組み造り、個人と組織がもっとすりあって、お互いに切磋琢磨しあえるような環境づくりも、今年の各社の課題となりそうです。これに関連するコメントとして、以下の11社を御紹介しておきます。
■三菱電機:谷口一郎社長
 「経済環境を嘆くよりもまず挑戦。言い訳や責任転嫁をしない。自分が最終責任者なのだという気概を持って仕事に取り組んでほしい」
■富士電機:沢邦彦社長
 「役員から従業員まで一人ひとりが変革の意思を持ち、実行を通じて組織風土まで高めていくことをお願いしたい」
■鹿島:梅田貞夫社長
 「情報は迅速かつ正確に伝達することを心掛けてほしい」
■三菱地所:福沢武社長
 「各部門が顧客に喜びを与えるプロに」
■アルゴテクノス二十一:佐藤雄二朗社長
 「社員個人個人が市場の要求する技術を確実に身につける努力が大切だ」
■アサヒビール:瀬戸雄三社長
 「社員一人ひとりにも従来にない新しい発想、思い切った決断、スピードある実行の三つを求めたい」
■ソフトバンク:孫正義社長
 「身の回りのあらゆる仕事をインターネットで置き換えられないかどうかを考えて、インターネット化が最も進んだ企業になるべく努力してもらいたい」
■日本ヒューレット・パッカード:寺沢正雄社長
 「コミュニケーションにフォーカスする年にしたい。お客様の話に懸命に耳を傾け、本当に望んでいることを引き出してほしい。社内でのコミュニケーションを密にし、気持ち良く仕事のできる一年にしてほしい」
■松下電器産業:森下洋一社長
 「デジタルネットワーク社会において、人と人とのコミュニケーションを大切にする社会、商品を当社として目指したい。一人ひとりが具体的な目標を持ち、フル回転で取り組んでほしい」
■テルモ:和地孝社長
 「会社は自分たちで守るという事故責任の原則が間違いなく浸透する年になると思う」「全社員が経営的な視点を持って自らの仕事を主体的に考え実行することが大切だ」
■日興証券:金子昌資社長
 「専門性を持ち、自己実現を目指す人材が集うリーディング企業となりたい」

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以上、ざっと概観してきましたが、いかがでしょうか。考えることはいろいろあると思います。
ところで、もしあなたが会社の社長だったら、今年一年をどのように展望し、どのような目標を掲げるでしょうか。
そしてまた、自分自身を「自分株式会社」の経営者と考えたとき、今年一年間の人生をどのように生きていきたいと思いますか。こうしたことを、いくつかの挨拶をヒントにしながら考えていくことも、また面白いかもしれません。
今年はウサギ年なので、それに引っかけた年頭挨拶もいくつか見られました。例えばTOTOの思渕雅敏社長は、「ウサギの特徴は大きな耳と脚力。情報を素早くキャッチし、俊敏に積極的に行動して飛躍する年にしたい」と語っています。干支に引っかけた挨拶には、陳腐さがつきまとうものですが、思渕社長のコメントはなかなか示唆的だと思います。
ただ、今まで眺めてきてわかるように、今年は「地道に堅実に」ということと「スピード変革」という一見矛盾するようなことを同時に行うことが必要とされています。
これを意識されたのかどうかはわかりませんが、このことを、干支を絡めて非常にうまく表現されているのが、明治製菓の北里一郎社長のコメントです。これを最後に御紹介することにしたいと思います。
「ウサギ年にちなみ、何も目まで赤くする必要はないが、質の良い情報を集め、バネを利かせ、目標に向かって大きくジャンプする年にしよう」

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