今回ご紹介する書籍は、「いきたい場所で生きる(僕らの時代の移住地図)」というもの。国内・海外移住者33人の取材にもとづく、いわゆる「移住」をテーマにした本です。
まだまだ「移住」を実践する人は少数派であるとしても、時代の流れにともなって、「移住」というものに対するイメージはだいぶ変わってきているなというのが私の印象。
「生まれた環境を捨ててどこかへ行く・・・」というような、ともすればネガティブな印象すらある「移住」が、より身近に検討可能なものになってきたのではないかと。さらに言えば、「移住」を超えて「移動しながら生活する」というのも不可能ではなくなってきたようにも思うのです。
まさに本書の題名通り、「いきたい場所で生きる」。それは「生きたい場所」であり、かつ「自分が活きる場所」でもあると。そういうスタンスから移住をとらえなおして考察しているのが、本書「いきたい場所で生きる:僕らの時代の移住地図」の特徴です。
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いくつか引用して、ご紹介しましょう。
テクノロジーや通信環境の進化は、スマートフォンやタブレット、ラップトップPCでどこでもいつでも仕事ができる状態を可能にした。それは昨今、「リモートワーク」や「テレワーク」という呼ばれ方でたびたび報じられ・・・。
そのようなICT(本書では以降、より一般的なITという呼称を使用する)を使ったリモートワークの実現によって、住む場所、暮らす街すら、選べる時代がきている。 従来のイメージに収まらない「移住」が近年増えている。 ITの進歩により、世界中どこにいてもリモートで仕事ができるようになったことと、リアルタイムに情報を共有できるようになり、地域による情報格差が減ったことが大きな要因だ。 それによって、新しい働き方や暮らし方を実践する人が急激に増えた。 LCC(ローコストキャリア:格安航空会社)が台頭して、飛行機での移動コストが下がったことも、それを後押ししている。 目的は移住することではない。自分の人生を自分の手に取り戻すこと、自分の夢を実現する自由だ。 |
冒頭に書いた「移住に対するイメージの変化」は、私の場合は特にこの数年で急に感じるようになりました。それは「私自身が抱いているイメージ」ではなくて、身近な人たちを見ていての印象です。
もちろん、私自身が「移住」というテーマをより深く考えるようになったことも影響しているかもしれません。でも、こうして見てみると、この十年での飛躍的なITの進化は非常に大きな影響を与えているのではないかと思います。
いつでもどこでもつながれる・・・。このことには良いことと悪いことがあるにしても、「遠くにいても、希望すればいつでもつながれる」という状態が実現したことは、移住のマイナス面を大きく下げる効果があったはずです。
そういえば、もっと前の時代の話でいけば、誰かが言っていた話を思い出します。
「衛星放送が普及したことで、海外に住んでいる人でも生まれ故郷のテレビ番組に触れることができるようになり、国際結婚の離婚率が減ったような気がする・・・・」なんて。
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先日ご紹介した移住本「生きる場所を、もう一度選ぶ(移住した23人の選択)」は、国内移住をした人たち23人のインタビューで構成されていました。
本書は、国内移住だけでなく、海外移住も含めて合計33人の方々への取材がなされています。そして「生きる場所を、もう一度選ぶ(移住した23人の選択)」とは異なり、著者なりの分析や見解、将来への予想なども含めて考察されていることが特徴になっています。
[本書に登場する主な移住地]
(国内) (国外) |
皆さん、移住に至った理由はさまざまで、経済的な事情も様々で、また独身なのか、結婚しているのか、子供がいるのか・・・も多種多様。様々なケースを通じて、よくある「引退してから余生を過ごす」というイメージの移住ではなく、あくまでも「働きながら暮らす場所を変える」という現役移住の実態を見ることができます。本書のケースを読んでいくと、実にさまざまなケースがあることに驚く人は少なくないはず。
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「現役での移住」という観点で見た時に、非常に重要な点だな・・・と私が感じるのは、次の点。
首都圏から移住するということは、東京の会社を辞めることが多い。だから、移住というのはある種、起業論とも結びついている。自分の仕事を自分でつくるということにつながっていくし、自分のストロングポイントを磨いていくことが必要不可欠となっている。 |
これは非常に重要な点で、私は「移住したい」とか「移動しながら暮らすのが夢」という人に会うと、必ずこの話をしています。「起業」と同じようにとらえるべきだと。逆に言えば、「起業」をするのと同じような心構えで準備をすれば、移住はそう難しい話ではないということです。
それは、新たな生活場所を探すという点だけでなく、その場所で暮らすということは人間関係も大事。さまざまなことを調べなくてはいけないということも大事。まさに「自ら開拓する」ということが求められています。だから「起業家マインド」ではなくて、完全に「雇われ状態」に慣れきった状態で挑むと、だいぶ苦労することになるはずです。そんな点も、本書を通じて感じ取ることができるのではないかなと感じます。
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なお最後に。
私の読後感は、「非常に理想を大事にした本だな」と。それは良い意味で言っているのですが、逆に言えば、理想やロマンを追いかけすぎるあまり、そのあたりを求めていない読者にとっては、「いらない箇所」が多いかもしれないなと感じました。
ITが「移住しやすさ」の後押しになっているのは事実ですが、あまりITの果たした素晴らしさの話が多いと退屈に感じる人もいますよね。また、移住した人たちのうち、街づくりや地域振興に携わることの話が多い気がしたのですが、「移住したら、そこに骨を埋めて、みんなのために・・・」というのを否定するわけではありませんが、そのような素晴らしい理想を掲げて移住をするという人は、そんなに多くはないと思うんですよね。
著者が抱く世界観があって、それに当てはめようとしているような印象があり、最終章では、それが若干ブーストしているかの印象すらあるのです。(あくまでも私が個人的に感じた印象ですが)
そういう理想をもつ人が読むには良いと思うのですが、そういう理想をもっているわけでもない人からすれば、「移住」が遠のいてしまう可能性もあるのではないかなと。堅苦しい感じをもったのも事実です。もっと気軽に「移住」とか「移動しながら暮らす」というライフスタイルを考察できると、もっと良かったのではないかなと。(偉そうで、すみません)
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ただ全体として見れば、新しい移住のかたち、新しいライフスタイルの実践者たちを取材した本は、まだまだ珍しく、貴重な存在だと思います。
二拠点生活、リモートワーク、職住近接、シェアリング・エコノミー、などなど。いろいろな新時代のキーワードをとりあげながら未来が考察されていて、新しい時代への変化を感じることができます。そして読者自身が、自分の将来を新たな目で考察しなおすきっかけを与えているなと感じました。
そういう意味では、移住に関心がなくても、新しい時代のライフスタイルとは。自分がもっと活きるような生き方とは・・・という観点での興味をもっている方には、ぜひ一読を薦めたい本です
■内容(「BOOK」データベースより) 2020年、あなたはどこに住み、どこで働いているだろうか?二拠点生活、リモートワーク、職住近接、シェアリング・エコノミー…震災、そして東京五輪の先にある新しい暮らしのかたちが見えてくる。 |
■内容紹介 自分らしい暮らしを求め、私たちはこれからどこに住み、どこで働くのか? 「リタイア後の田舎暮らし」「沖縄やハワイで悠々自適」といったイメージも今は昔。昨今は官民一体となった地方創生とリモートワークの促進を背景に、ITの進歩や格安航空券の普及などによる移動コストの低下もあり、とくに震災以降、働き盛り世代を中心に、「移住」への関心が高まっています。 本書では、「東京オリンピック後に自分が移住するとしたら、どこに住むだろう?」という発想から、国内外に移住した33人への取材をもとに、現代の「移住のリアル」について描きだしていきます。登場するのは、男性、女性、シングル、子持ち、フリーランス、会社勤め、経営者、アーティストなど、じつに多種多様。きれいごとばかりではありません。職はあるのか、子を教育する環境はどうかなど、ぶっちゃけた本音にも触れていきます。 「移住万歳」「地方万歳」の本ではありません。でも、自分の思い描く”理想の暮らし”を実現するために必要な知恵やマインド、現実を伝えていきたいという思いから、本書はできあがりました。 移住というトピックを通じて、リモートワーク、二拠点(多拠点)生活、職住近接、シェアリング・エコノミーといった |
■出版社からのコメント
本書のテーマは、国内外に移住した三十三人への取材をもとに、移住のリアルについて描きだすことだ。東京という日本の「中央」(この言葉とそれに対する「地方」という言葉は嫌いだが、利便上使わせていただく)の大都会から離れた(海外含む)土地での働き方、暮らし方のスタイルとストーリー。 きれいごとばかりを並べたガイドブックには書いていない、移住のデメリットやハードル――専門技術がなくても職につけるか、家族で移り住んだ場合の教育環境はどうか、など――要は「ぶっちゃけた本音」についても触れたいと思っている。 「移住万歳」「地方万歳」の本ではないということをお伝えしておきたい。現実はそんなに単純ではない。 「良い面ばかり書いて本当か? 実際のところは大変なことばかりなんじゃないか?」という疑問符を、当然読者の方も抱いているだろう。そのリアリティを記さなければ信憑性に欠けると考え、聞きにくいこともかなりつっこんで聞いてみた。 それでも僕は、ちょっと青臭いけれど、これから来る激動の時代、もっとも尊いのは「個人の自由」だと考えている。 自分の人生を自分の手に取り戻すこと、自分の夢を実現する自由だ。そのためには「自分が本当に望んでいる生き方は何か?」という問いから逃げずに、自分自身と自分の現在と未来を見つめ、考えることを繰り返すことは不可欠だ。移住とそれに必要なマインド、知恵や方法を、この本では取材対象者それぞれのやり方から探っていこうと思う。 |
■参考:このテーマに関連するブログ記事です。こちらも、どうぞ。
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【 時の運と人の縁を極める日々の記録 】 渡邉 裕晃
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