インドネシアの入門書「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」の再増刷が決まりました。これで累計部数は「11,000部」になります。
本書が出たのは2013年11月のこと。もう6年以上も前の本です。「ビジネス書であれば1万部も出れば合格」と言われている中、少部数ながらもジワジワと売れています。今回は、実に1年9ヶ月ぶりとなる増刷。いまだにお買い求めいただけるとは、びっくりです。
今回は「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本のその後」と題して、本書を出版してからの6年間をふりかえり、特筆すべきインドネシアの変化をいくつかのポイントに整理しました。なお本書の内容や反響については、こちらをどうぞ。
目次
ビジネスの観点から見た「インドネシア入門おすすめ書」としての評判も

【写真:あるインドネシアイベントで、知人が手作りで作成してくれたPOP。嬉しい!!】
6年以上も前の本ですが、ジャカルタで新たに日本人駐在員に出会うと、この本のことが話題になります。
「インドネシアへの駐在が決まり、大急ぎで基礎情報を把握しないといけない状況で本に出会いました。わかりやすく、基礎がおさえられて助かりました」
「インドネシアの入門本というと、旅行ガイドか語学書しか見つからなくて。ビジネスの観点での情報を探している中で重宝しました」
といった声をいただきます。偶然にも、今回の増刷決定の連絡をもらう前日、相当久しぶりに著者サインを求められたばかり。ホントにありがたいです。
本書が出た後、インドネシアには新たな話題もたくさん
すでに書いた通り、「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」が出たのは2013年11月のこと。すでに6年以上が経過していますが、成長を続けるインドネシアには、新たに取り上げるべきテーマもたくさん生まれてきています。
ここで、新たに生まれたテーマについて、少しばかり整理をしてみましょう。
人口は世界4位、2020年には2億7000万人を超える?

インドネシアの人口は世界で第4位。世界銀行の数値によれば、本書が発売された2013年時点では2億4882万人でしたが、2019年では2億6700万人となっています(ただし2019年10月時点の推計)。
本が最初に出た時の帯は「2.5億人の若い市場が待っている!」でした。
また、インドネシア中央統計庁(Badan Pusat Statistik (BPS)の発表値を見ると、2020年の想定値は2億7106万人。5年前の2015年時点では2億3851万人となっているので、非常に早いペースで伸びていることがわかります。
なお「世界銀行」の発表数値とは若干の誤差がありますが、2020年に2億7000万を超えるという点は共通しているようです。
インドネシアに進出する日本企業数や駐在員の数も増加!

「JETRO日系企業調査」によれば、インドネシアに進出する日系企業数は、2019年4月時点で1574社とされています。
また、外務省「海外在留邦人数調査統計」によれば、2013年10月1日時点の「進出日系企業」は1,438ヶ所。それが2017年10月1日時点では1911ヶ所へと増加しています(ただしこの数は会社の数ではなく、日系企業がインドネシアに有する拠点数。1つの企業が3つの事業所等を有する場合は3拠点として計上)。
これに伴い、インドネシアに住む日本人の数も増えています。本書が出版された2013年10月1日時点で16,296人(ちなみにその前年は14,720人)だったものが、2018年では19,612人に。ジャカルタを歩いていると、本当によく日本人に遭遇します。
その後も続くインドネシアの経済成長、1人あたりGDPは?

高い経済成長が続くインドネシア。本書でも、その経済成長と潜在力に注目しようというトーンの記述をしていました。
例えば1人当たりGDPで見てみると、本書が発売された2013年は3,684USドルでしたが、現在では3,871USドルとなっています。
これにともない中間層も増加。国内移動をしていても、旅行者の数が増え、車が増え、値段の高いレストランでもインドネシアの人々を見かける機会が増えています。
「経済成長が鈍化してきた」とのメディア報道も散見されますが、依然として5%台という高い数字を維持。物価も比較的安定しており、失業率も微減となっています。
新しい大統領が率いる新しいインドネシア
Terima kasih. Ini kehormatan bukan untuk saya semata-mata, tapi untuk Indonesia. pic.twitter.com/01rskM4KTz
— Joko Widodo (@jokowi) December 5, 2019
ユドヨノ大統領からジョコウィ大統領に変わったというのも、本書が出てからの大きな変化の一つです。「威厳ある指導者」というイメージのあるインドネシアの大統領でしたが、「市民に寄り添う庶民派大統領」の誕生は、メディアでも大きく取り上げられました。
汚職の根絶に向けた取り組みや、デジタル技術を活用した行政手続きの透明化・簡素化、そして思い切った人材登用や、敵をつくらない新しいタイプの政権運営など。その他、様々な政策や意思決定の流れは、まさに「新しい時代のインドネシア」を感じさせるだけのインパクトを与えています。
2019年の大統領選挙でも再選されました。「3選出馬ができない」という憲法規定があるため、現在のジョコウィ大統領が最後の任期でどんな政権運営をするのか、目玉政策は実現するか、次の指導者へのバトンタッチはどうなるか・・・等々の注目が集まっていくことになるでしょう。
なお2019年の大統領選挙については、ラジオの15分コーナーでも2回ほど解説をさせていただきました。興味のある方は、こちらもどうぞ。
ジャカルタ首都移転プロジェクト
.Presiden @jokowi Umumkan Lokasi Pemindahan Ibu Kota di Bulan Agustus pic.twitter.com/Upo4vgGCC3
— KOMPAS TV (@KompasTV) July 31, 2019
2期目のジョコウィ政権が打ち出した目玉政策の一つが「ジャカルタ首都移転プロジェクト」です。首都移転は、初代スカルノ大統領の時代から何度も出てきては実現せずにいるもの。大統領に再選された2019年4月直後に閣議決定されました。
首都移転のスケジュールは?
2019年8月には大統領が正式に首都移転を表明。2021年中にマスタープランを策定し、官公庁の建設をスタートする予定になっています。
検討されている移転施設は、大統領宮殿、国会、主要省庁などが中心です。中央銀行や金融庁等のビジネス・金融関連の機関はジャカルタに残る予定ですが、2024年にも移転をスタートさせる計画です。
100万人規模の移住が想定されており、2期目の総仕上げとしての意味合いもありそうです。
新しいインドネシアの首都は東カリマンタン州に
移転先とされるのは、東カリマンタン州のバリクパパンとサマリンダの近郊。北プナジャム・パセル県とクタイ・カルタネガラ県にまたがる国有林「ブキット・スハルト」での新首都建設が有力視されています。
費用としては、約466兆ルピア(約3.5兆円)が見込まれており、国家予算からの支出は2割弱(19.2%)に。
その他、約150兆ルピアを国有施設や国有地の売却によって捻出する他、(財務省によれば、ジャカルタ首都圏に政府が所有する不動産の資産価値は1100兆ルピアとのこと)、民間企業からの出資も期待されています。
ソフトバンクによる大型出資の予定も
2020年1月にはソフトバンクが大型出資を表明してメディアで話題になりました。ソフトバンクは人工知能(AI)等の先端技術への注目でも知られていますが、それらを活用することで、最先端の「スマートシティー」の開発に協力すると見られています。
報道によれば、ソフトバンクは首都移転計画のために、300億ドルから400億ドル(約3兆3000億円〜4兆4000億円)を投資する予定とされています。
【追記】
その後1月17日に、ソフトバンク孫正義さんは、インドネシアの首都移転計画を検討する審議会のメンバーに任命されています。
着実に進むデジタル革命によるインフラ改革とキャッシュレス化

人口増加やGDPの伸び、新しい大統領や首都移転といった大きな規模の話題を取り上げました。しかし、足元の日常の生活環境という点でも、急速に変化を続けているのがインドネシアです。その一つが「デジタル革命によるインフラ改革とキャッシュレス化」です。
デジタル革命で配車アプリが急速に普及、タクシーは低迷へ
本書が発売された2013年、ジャカルタに行くと街のあちらこちらでブルーバード社の「ブルーバードタクシー」を見かけました。現在では空港やモールなど、特定の場所でしか見かけません。配車アプリ「Go-Jek」や「Grab」が急速に普及したためです。
2015年1月にはGo-jekのアプリがスタート(それまではコールセンター経由)。2015年6月にはGrabのサービスが始まります。案件に手軽に移動ができるようになり、もはや公共交通機関のような存在になりました。タクシーに乗るより、安くて気軽、しかも安心だということで急速に広がりました。
配車サービスにとどまらない「生活インフラ」へ
また、タクシー等の「配車」だけでなく、ありとあらゆる生活サービスを提供していったのも同社の特徴です。現在では「配車」の案件よりも、レストランでの食事を配達する件数の方が多いほど。掃除やマッサージ等のサービスまで提供されています。
「Gp-Pay」や「OVO」などの電子マネーが急速に浸透
さらには、同社の動きによってキャッシュレス化も急速に浸透しています。2016年12月になると、Go-Jek社がPonselpayを買収するかたちで電子マネー「Go-Pay」をスタートさせます。また同年にはGrabも「Grab Pay」を開始。現在の電子マネー「Ovo」が始まります。
インドネシア中央銀行の統計値を見ると、2017年に9億4330万回だった電子マネー決済件数は、2018年には29億回を超えるまでに。2019年には7月現在で27億回を突破する勢いです。
また電子マネーの利用金額も、2017年に12兆4000億ルピアだったものが2018年には47兆2000億ルピアに。2019年も急成長していて、7月現在で既に69兆ルピア(約5500億円)を超えています。
現在ではモールやスーパーだけでなく、庶民が利用する食堂でも電子マネーが使えるようになってきています。「現金から電子マネーへ」という動きは今後も加速していくでしょう。
ジャカルタを中心とした交通インフラの整備

他にも様々なテーマがあります。出版後の大きな動きとして欠かせない1つは、交通インフラの変革です。前述した配車アプリの急速な普及だけでなく、大きな話題になったのはジャカルタにおける地下鉄や電車です。
日本の円借款プロジェクトで生まれた「ジャカルタ都市高速鉄道」(MRT)は、2019年3月に開通。設計だけでなく、建設工事や車両、改札システムや信号システムなど、数々の日本企業が共同して開通させました。
私自身も何度か利用しましたが、非常に簡単かつ短時間に移動できるため、非常に重宝しています。
かつては「洪水が起きたら、一気に水が入っちゃうに決まってる!」なんて声もありましたが、2020年1月1日に起きたジャカルタ大洪水でも、MRTは運休することなく通常通りの運行が行われました。「さすが日本企業がつくっただけのことはある!」との声もあったほどです。
また、軽量高架鉄道(LRT)も、ジャカルタ市内で2019年12月1日から営業を開始しています。今後も交通インフラの拡大が予定されていて、ジャカルタの大動脈はさらに整備されていくことでしょう。わずか数年での変化は、本当にすさまじいです。
その他の動き

また、インドネシア経済の活性化には外資導入も不可欠です。インドネシアは意外と外資企業の進出ハードルが高い国ですが、徐々に改革が行われています。
特定業種における法人税の減免、法人所得税の見直し(25%→20%へ?)、また外資参入制限の業種を定めた「ネガティブリスト」を見直すことで、禁止業種を515から371に減らすとの観測もあります。
また、海外企業のインドネシア進出を担当する「投資調整庁」(Badan Koordinasi Penanaman Modal : BKPM)を、新たに「投資省」(Kementerian Investasi)へ昇格させる検討が行われているとの情報もあります。
インドネシアの「汚職文化」を断絶させ、透明化をはかるための施策も、ここ5年で急速に変化したところです。これにともない、行政手続きの簡素化や、行政手続きのオンライン化も進められています。
・・・と、さらっと書いていますが、現地で暮らしていると、これらの急速かつ地道な変化は本当に革命的ですらあります。
まだまだ成長を続けるインドネシアを追いかけたい
ここで取り上げた様々な変化は、インドネシアの成長をとらえるためのほんのわずかな側面でしかありません。実際にインドネシアを訪れると、たくさんの変化が同時進行でダイナミックに進んでいる状況が肌で感じられるはずです。
成長を志向するインドネシアの数々のビジョンとレポート

今後も高い成長を続けると見られるインドネシア。様々なビジョンやレポートが発表され、また新たな将来構想も続けられています。
2018年4月にはインドネシア工業省が「Making Indonesia4.0」を発表。「2030年までに国内総生産(GDP)で世界トップ10になる」との宣言を出しています。ちなみに世界銀行の統計によれば、2018年時点のインドネシアのGFPは10,422億ドルで世界16位です。
また2019年10月に開催されたジョコウィ大統領の就任式では、2045年の1人当たりGDPで3億2000万ルピア(約250万円)、世界トップ5に入ることを宣言しています。
人口規模でも2030年には3億人の大台に乗ると見られており、独立100周年である2045年を目標とする国家ビジョン「VISION 2045」が構想中です。
デジタル経済でも急成長、インドネシアは東南アジアの牽引役に

インドネシアにおける2019年のインターネット経済は40億ドル規模で、2015年と比べると4倍に・・・。
これは、グーグルやシンガポール政府系投資ファンドのテマセク(Temasek)、そして米コンサルティング会社ベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)による共同調査レポート、「e-Conomy SEA 2019」によるものです。
同レポートは2025年にはこれが130億ドルを突破すると予想。東南アジアのインターネット経済成長の牽引役はインドネシアとベトナムの2国であり、年間40%の成長は揺るぎないと見ています。
またマッキンゼーの「The digital archipelago: How online commerce is driving Indonesia’s economic development 2018」では、インドネシアにおける2017年の消費者支出のうち、ECだけで8億ドルに達すると。
また2022年には8倍の65億ドル前後になると予測しており、そのうち40億ドルがECで、25億ドルがソーシャルメディア経由の取引になるとしています。
さらには、これらの動きはビジネス上の利益をもたらすだけでなく、一般社会にもたらす恩恵も大きいと指摘。その一例として、オンライン取引の拡大により、インドネシア国内の物流コストは全体で11%から25%の削減が実現されるとしています。
若さのパワーが光るインドネシアは要注目
今後のインドネシアを考えるためには「若狭のパワー」にも要注目です。ここでは3つの事例をご紹介しましょう。
ゴジェック創業者ナディム・マカリムを教育文化大臣に任命
Nadiem Makarim dan Erick Thohir 'siap' menjadi menteri Kabinet Jokowi, apa reaksi pasar? https://t.co/8xeNriXURh pic.twitter.com/NcSpBB5xHy
— BBC News Indonesia (@BBCIndonesia) October 21, 2019
今回、2期目の大統領に再選されたジョコウィですが、第2次内閣の組閣で注目を浴びたのは、まだ35歳という若さのGo-Jek創業者、ナディム・マカリム(Nadiem Makarim)を教育文化相に就任させたことでした。
今までにない人材登用で、かつ、若いチカラを活かすという姿勢は今後もインドネシアがどんどん変わっていくことを想起させます。
ナディム・マカリムには、教育におけるデジタル技術の活用や、新しいベンチャーマインドを教育に注ぎ込む等が期待されています。
たとえば就任早々、インドネシア恒例の卒業試験「全国統一試験」(Ujian Nasional)の改革に着手するなど、今までにない動きが始まっています。記憶偏重の試験をクリエイティブなものに変革させていくようで、詳しい内容に期待が集まっています。
インフルエンサーのプトリ・タンジュンを大統領補佐官に任命
また、2019年11月には「インフルエンサー」としても知られる20代の女性起業家、プトリ・タンジュン(Putri Indahsari Tanjung)が、大統領補佐官に選ばれています。
「起業の実態を教えてほしい」とのジョコウィ大統領からの要請により、就任を受諾したと言われています。
ブカラパック共同創業者ファジリン・ラシドを国営企業の取締役に任命
また2020年6月には、ネット通販大手「ブカラパック」共同創業者のムハンマド・ファジリン・ラシド氏(Muhamad Fajrin Rasyid)を、通信系の国営企業「テレコムニカシ・インドネシア」(テルコム)の取締役(デジタル事業担当)に就任させています。
ブカラパックはユニコーン企業の一つで、同氏はまだ33歳という若さです。
インドネシアを歩いていて目立つには、やはり「若い人が多い」ということ。街を歩いていても、レストランに行っても、スーパーやコンビニ等でも、どこでも若い人が多い! とにかく街全体にパワーがみなぎっているのです。
今後も元気いっぱいの息吹を、書籍、ブログ、その他様々な手段で伝えていければと思っています。
【参考】「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」に関するブログ記事
「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」を書いてからの記録をまとめています。各メディアでご紹介いただいたり、増刷を迎えた時の改訂ポイントや感想を書いてきたものです。ご関心のある方は、ぜひご覧ください。
| (参考:samsul.comブログから) ■2013年11月2日up 「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」書きました。 ■2013年11月6日up 「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」、ついに実物が完成!! ■2013年11月9日up 週刊「Lifenesia」で書籍「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」が紹介されました。 ■2013年11月20日up 「マンガで3時間でわかる本」東南アジアシリーズ・フェア開催中 ■2013年12月7日up 【12/20(金)代々木】書籍「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」食事交流会 ■2014年2月6日up 「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」シンガポールでも発売中!! ■2014年5月15日up 「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」増刷されました。 ■2014年10月23日up 「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」さらに増刷されました。 ■2015年6月28日up 「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」1年半で3度目の増刷に |

