作家、立松和平さんの小説。日光・中禅寺湖をテーマとする、『二荒(ふたら)』が、絶版になりました。2008年6月の出来事です。本当にショックです・・・。
1993年にも『光の雨』という作品で盗作疑惑を起こした立松さん。二度目となると、厳しいかもしれませんね・・・。
何がショックと言って、この『二荒』という作品、私にとっては、「2007年に読んだ小説部門、ナンバーワン」だったのです。
(しかも、私の縁戚が関わった舞台も描かれている作品でした)
ショック、ショック、ショック・・・。
目次
立松和平の小説『二荒』、素晴らしい文学作品だったのに
【写真:絶版になった『二荒』の表紙(なんと箱です!)】
私にとっては、「2007年に読んだ小説部門、ナンバーワン」。だから「早くブログで紹介したいな」と思いつつ・・・、でも、なぜか、なかなか書き進むことが出来ませんでした。
これも、何かの因果なのでしょうかねぇ。本当に素晴らしい作品なのに・・・。
「東京アングリング・エンド・カンツリー倶楽部」の歴史を追う
そもそも、この本「二荒」読んだのは、小説のモデルになっているご本人から、直接教えてもらったことがきっかけでした。
私の祖母の叔父とその父親は、日光の中禅寺湖で、一定の活躍をした人でした。当時、欧米を中心とする外交官たちの避暑倶楽部が展開されていて、それに大きく関わりを持っていたのです。
その名前は「東京アングリング・エンド・カンツリー倶楽部」です。そんな先祖の活躍の一端を知りたくて、昨年、その歴史を追いかける旅に出たのです。
日光で『二荒』に登場するモデルに出会った
実際に日光の中禅寺湖を訪問し、いろいろなものを見て、また、いろいろな出会いもあったのですが(なんと意外な縁戚にも遭遇!)、そのうちの一人が、この小説の主人公のモデルさんだったのです。
森の中に住むその方は、本当にシャイで、ほとんど目を見てくれません。
それでも、しつこく近づいて、話をしていたら・・・、なぜか、急に気に入ってくれて。
「お前、これから帰るのか? だったら、途中まで俺の車に乗ってけや」と、いろいろなお話を聞かせてくれたのでした。
その中で、「立松和平さんが来月、小説にするみたいでね。私はまだ読んでいないんだけど、ぜひ見てみたらどう?」と教えてくれました。
その本が『二荒』と出会う、きっかけだったのです。
盗作疑惑で絶版になった本を賞賛するのも気が引けますが・・・、私が2007年に読んだ小説の中では、文句無く、圧倒的なナンバーワンとなる本でした。
悲しいことに、盗作元となった本の著者は、これまた、遠からず関係者(笑)。その方が、かつて自費で出版された非売品の小冊子、私は持っています・・・。当時の避暑倶楽部に関係した人物に配布されたもので、昔、私の祖母から、なぜか私に手渡されました。なんか、本当に残念ですよ・・・。
問題とされた盗作の箇所は?
ところで「盗作」として問題とされた箇所ですが、本書「二荒」の第2章の冒頭部分です。福田和美さんが書かれた著作、「日光鱒釣紳士物語」(山と渓谷社)に類似した箇所があるとされました。
報道によれば、「二荒」を出版した新潮社が「参考文献として挙げていたものの、参考の域を超えて使用していると判断せざるを得ない」として、絶版を決めたのだそうです。
舞台となる「東京アングリング・エンド・カンツリー倶楽部」とは?
ちなみに、この避暑倶楽部、「東京アングリング・エンド・カンツリー倶楽部」自体も、惜しまれて無くなりました。昭和19年、戦争末期で、仕方なく頓挫。記録を見る限りでは、日光の中禅寺湖を舞台にした、本当に素晴らしい楽園のような倶楽部だったようです。
テレビドラマにもなった有名な作品、真山仁さんの『ハゲタカ』の原作本では、この避暑倶楽部が、登場します。
(ちなみに、本書は私にとっての「2006年に読んだ小説部門、ナンバーワン」です)
この素晴らしい理念をもった倶楽部が、外資の手によって、現代によみがえるという設定の話になっているのです。私は、その歴史をかじったことがあるだけに、やはり『ハゲタカ』を読んでいて、本当にドキドキ、ワクワクさせられました。
その後、幸運にも、真山仁さんとコンタクトをとることができ、この旨を伝えたら、本当にびっくりされました(笑)。
小説「二荒」の文学作品としての魅力と素晴らしさ
だんだん話がそれてきましたが・・・、
日光と言えば、そこが栄えたのは、
(1)日光が開かれた時代(勝道上人) (2)江戸幕府によって守られた時代(徳川家康) (3)明治から昭和にかけての避暑地時代 |
という3時代(厳密には、昭和の高度経済成長時代も含められるかも)。
その3時代を、あっちに行ったり、こっちに行ったり、小説『二荒』は、それらの時代を縦横無尽に行き渡る、本当に素晴らしい作品なのです。
自然と生命、人間の価値・・・。実に素晴らしい、ゆったりとした時間が描かれていて、読んでいて、とても不思議な気分にもさせられた作品でした。本当に感動的な作品で、思わず私は再読までしてしまいました。そんな作品、私にとっては、相当珍しい部類に入ります。
本来なら、この小説によって、中禅寺湖の素晴らしい世界が現出されて、当時の避暑倶楽部に関係した、トーマス・ブレーク・グラバーや、ハンス・ハンターなど、日本の近代化に貢献した外国人たちが改めてクローズアップされていたはず。
一方で、生命の神秘もまた同時にあぶりだされていて、表現が陳腐で申し訳ありませんが、本当に本当に素晴らしい世界が描き出されていたのです。
ほんのちょっとした盗作が傷をつけることになり、本当に残念・・・。あぁ、残念。
修正してから再出版される予定だそうですが、傷は残るでしょうね・・・。
本当は、日光の素晴らしい物語と共に、華々しい復活を遂げてほしかったのですが。
中禅寺湖の歴史には、なぜか悲しいムードがつきまといます。
■追伸:
後日、こんなブログを書いています。本書の改訂版が出たのです。
本書を書かれた立松和平さんは、2010年2月8日に急逝されました。ご冥福をお祈りします。
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【 時の運と人の縁を極める日々の記録 】 渡邉 裕晃
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