2011年に芥川賞を受賞した、西村賢太さん「苦役列車」(新潮社、2011/1/26)を読んでみました。2012年の映画化が決定している作品です。
友もなく、女もなく、一杯のコップ酒を心の慰めに、その日暮らしの港湾労働で生計を立てている十九歳の貫太。或る日彼の生活に変化が訪れたが…。こんな生活とも云えぬような生活は、一体いつまで続くのであろうか―。昭和の終わりの青春に渦巻く孤独と窮乏、労働と因業を渾身の筆で描き尽くす表題作と「落ちぶれて袖に涙のふりかかる」を収録。第144回芥川賞受賞。
ちょうど、私たちが運営するダンボール通販サイト、「オーダーボックス・ドットコム」が映画に協賛しているということもあります。(弊社が制作するダンボールが、映画の中に登場します)
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もう一つの理由は、テレビで見た芥川賞の受賞会見での、西村賢太さんのコメントが実に特徴的で、「この人の本は、ぜひ読んでみたい」と思ったためです。
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読み終えての感想は、
ずばり「こんなに骨太な新作が出たのか!」ということ。
驚きを禁じえませんでした。
感性豊かでプリミティブで、
日常の中の非日常を、
暗い世界の中での光を、
人間の生の実態を、
非常に美しい日本語で描き出した作品だと思いました。
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ネタバレになるので詳述しませんが、
100ページちょっとの短い作品の中で、
たんたんと流れていく日常が描かれます。
実に古風な日本語で紡がれる描写が、
これまた、実に見事。
この日本語には、ハマります。
まるで、近代文学を読んでいるかのよう。
それこそ、「現代版・プチ蟹工船」という感じです。
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一方で、著者の「私小説」でもある本作品は、
著者の1967年生まれという背景もあって、
昭和50年あたりからからの世界が描かれます。
明治大正の近代文学を読んでいるようでありながら、
その実、描かれている世界は、ごくごく最近であるという、
この対比が、またこの作品の深さを盛り立てているように思います。
この日本語の描写力は、近代文学における相当な読書量が無ければ、
土台無理なレベルだと言って良いと思います。
こうした作品が、「新人賞」としての位置づけをもつ「芥川賞」に選ばれたということは、今後の日本文学に対する新しい希望の光ではないでしょうか。
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「私小説」ですから、読後感として、「だから、何が言いたいの?」と感じる人もいると思います。
著者が生まれてから20代までの過程を描いたものなので、
「あなたの歴史を読まされてもねぇ・・」と思う人も
ひょっとしたらいるかもしれません。
でも、なんと言うべきでしょうか、
たんたんとした日常であっても、
優れた感性で読み解くと、
こんなに様々なことが透けて見えてくるのか! という、
そんな作品なのです。
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ハッピーエンドがあるわけでもなく、
波乱万丈があるわけでもなく、
スペシャルイベントがあるわけでもなく、
ハラハラドキドキがあるわけでもない。
でも、心に深く刺さるものがある。
しかも、じわじわと・・・。という作品ですね。
100ページほどの作品。
すぐ読めるものなので、ぜひチャレンジしてみてほしい一冊です。
■追伸:
読了して思ったもう一つの感想は、「えっ、この作品。本当に映画にできるの?」というもの。脚本も監督も、相当難しいでしょうね・・・。それだけに、余計に映画の完成が楽しみで仕方ありません。
【参考】映画「苦役列車」の概要について
原作:西村賢太(新潮社刊)
監督:山下敦弘
出演:森山未來、高良健吾
■イントロダクション
作家・西村賢太が2011年芥川賞を受賞した小説『苦役列車』(新潮社刊)が、『天然コケッコー』『マイ・バック・ページ』で高い評価を得た山下敦弘監督により早くも映画化される。主人公となる「中卒」「風俗」「日雇い労働」の19歳の少年役を、『世界の中心で、愛をさけぶ』『モテキ』の森山未來が扮する。共演には、デビュー5年で出演映画20作以上の若手演技派俳優・高良健吾を迎え、異色のコラボレーションに期待がかかる。
■ORICON RANKING NEWS(2011年12月03日)
「森山未來、今年は最後まで”ダメな男” 西村賢太の芥川賞受賞作『苦役列車』を映画化」