『小娘社長のときめき奮戦記』レビュー(電脳アイドル・チバレイの起業奮戦記)

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今回取り上げる本「小娘社長のときめき奮戦記―「私」が「わたし」であるために」は、電脳アイドル・チバレイの起業奮戦記です。

突然の引退でファンを驚かせ、その後OLになり驚かせ、さらには会社を起こしてますます驚かせる……という千葉さん。彼女がこの道を選んだ背景や、起業にまつわる様々な悩み、会社を運営して初めてわかったことなどが綴られています。

若干二十歳で起業した若手起業家として、しかも圧倒的に男性が多い中で女性が起業した珍しい例として、なかなか興味深いと思います。漠然と起業に興味のある学生の方にも、気楽に読める本としておすすめできます。
(千葉麗子著、経済界、1998年 8月 4日発行)

書店に行くと起業体験記の本はいくつも見られます。そのほとんどは、既に成功してしまった(成功しきってしまった)方や、ある程度のお年を召した方が書かれたものだと言って良いでしょう。そこにはもちろん、起業したばかりの頃の悪戦苦闘ぶりも書かれています。しかし、所詮は成功者が過去を振り返っているだけに過ぎません。

その点この本は、会社で働いた経験がほとんど無いままに起業した若手経営者の独白になっているのが特徴です。なによりも、まだ成長途上にある経営者自身が書いていること、しかも、わずか数年前の起業決意から現在に至るまでの過程を、まさに「現在進行形で」著述している点がポイントです。こういう本はあまり無いのではないでしょうか。こういう視点で読むと、とても面白く読めます。漠然と起業に興味のある学生の方にも、気楽に読める本としておすすめできます。「どうせアイドルが知名度を利用してつくっただけの会社だろ」などと言うことなかれ、です。

< 本書の内容(時系列) >

・アイドルを辞める時期(起業のために辞めた、というわけではない)
・OLの時期(起業のトレーニングとして入社したというわけではない)
・いざ起業へ
・進行過程〜現在まで
・今後の展開について

以上が本書のおおまかな流れです。

全体的には、千葉さんが直面した問題や悩み、それらについて彼女がどう感じ、どう考え、その結果どう行動したか、ということが、率直に屈託無く述べられています。起業したばかりの若手経営者や起業を考える学生の方には、参考になりそうです。既に起業した経営者の方には、「起業したばかりの頃はそうなんだよなぁ」と共感できる点がいくつか出てくるのではないでしょうか。起業後の自分の成長と、彼女の成長ぶりとをなぞることができるかもしれません。

若手経営者というと「どのように資金調達をしたのか」ということに注目が集まります。千葉さんの場合はアイドル時代のギャラであるわけですが、アイドル時代についてはあまり快く思わない(そのように読める)ものの、起業を決意した時点で既に手元に準備資金があったことについては、アイドルをしていたおかげだと告白している点は面白いです。

若干15歳で起業したインターネット系ベンチャー、クララオンラインの家本賢太郎社長の場合も、起業を決意した時点で、原稿料などの蓄積があったために、既に準備資金があったという典型例だと言えますね。

僕が15で社長になった理由(わけ)

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先日、10歳の少女が起業したということが話題になりましたが、(宮崎県都城市の丸野遥香(はるか)さんの会社「ハルカファミリー」です)彼女の場合はどうしたのでしょうか。興味のあるところです。 (→ http://www.haruka-inc.net/main/syacyo/news.html )

さて、300万円を用意した千葉さんが最初に直面するのは「定款って何?」ということ。いろいろ考えてひねり出し、実際に書いてみて経営者の知人に見せて笑われたことが話に出てきます。

周辺に、ノウハウ面での支援をしてくれる人たちがたくさんいたという好環境はもちろんのこと、千葉さんの場合に恵まれていたのは、「経営の素人故の良いところ」と言うのでしょうか。「素直な心」で素朴な疑問を呈し、一歩一歩着実に問題解決に当たりながら、「仕事」に対しては自分なりの筋の通った姿勢を貫いているところが興味深いです。

身近で会社の倒産を見ているというのも実に良い体験で(これはとても重要な経験ですよね)、自分の失敗も含めて、いろいろなことを教訓にしながら、それでも自らのポリシーは明確に保ち続けています。いろいろな問題に直面しつつ、しっかり受け止めているようです。日々の成長が著しいように見受けられました。本書を読み進めていくうちに、著者の成長の過程が垣間見えてきます。

実際に働いた経験もほとんどないので、他人の助言を参考にしつつも自分なりに問題解決に当たっていきます。失敗は素直に反省し、他人の意見に無闇やたらに迎合しない……。こういう素質があるからこそ、経営の素人であるにもかかわらず、どうにかこうにか三年以上もの間、会社を倒産させずに回し続けることができているのでしょう。

中には社員との衝突も生々しく描かれています。「若い女だからいじめてやろう」という悪質な経営者によって意図的に支払延期を余儀なくされ、資金繰りに困った経験も出てきます。この出来事について千葉さんは、自分のミスを正直に反省しながらこう書いています。

「資金繰りの苦しさを経験して、私は経営の本質を少しばかり垣間見ることができたと思う。会社を経営するには、人を育てたり、みんなの仕事をマネージメントしたり、あるいは人脈を増やしていったり、と様々な要素が必要になるけれども、会社の資金繰りをどうするか、ということこそが最も重要で、企業そのものの根幹に関わる部分なのだ」
どんな失敗も、教訓にしてプラスに転嫁させるのがうまいのかもしれません。

面白いのは、女性社員に対する彼女の考え方です。「もっともっと女性で固まってやっていこう!!」という考えの持ち主かと思いきや、意外や意外。「会社で女性を使うのは実に難しい。私はしばらくの間は女性は雇わないことにしている」と書いているのです。これは実に興味深い点です。ただ注目すべきは、<女性社員は使いものにならない> と言っているのではなく、<女性社員を使う際には、使いこなす側が優秀でないとダメだ> と言っているところです。

起業した頃は、有限会社と株式会社の違いを勉強するというレベルであった千葉さんですが、本書の後ろの方ではこんな発言をするに至ります。

「経営者にそれなりの力量や才覚、気概さえあれば、ある程度の窮地なら充分乗り切れる、とも思う。要は、自分はどれくらいの規模を経営できる器なのか、と冷静に見極めることが大切なのだ、きっと。」

本書の副題は「『私』が『わたし』であるために」というものですが、本書を読む限りでは、まさにその通りの人生を歩もうとしているように思えました。若くして起業する生き方を選択する人たちが、これからますます増えてくるような気がします。

最後に、ちょっと残念に思った点を二、三。心の揺れ動きや問題解決のための思考の過程については非常に率直に語られています。しかし実際の営業活動に伴う悩み、儲けに直結する活動についての記述はほとんど見られません。例えば実際に営業に行ってどうなのか、といった点が触れられていないのです。これは、「デジタルベンチャーを標榜してはいるものの、やはり芸能プロダクション、千葉麗子事務所に過ぎないんだな」という誤解を生みかねないように思いました。

また、現在はまだ「千葉麗子事務所」のような性格が濃いということを正直に書いてはいるのですが、この後、どのようにして「デジタル会社」へ脱皮を図ろうとしているのか、そのへんも、ちょこっとしか触れられていませんでした。会社には成長段階に応じたやり方というものがあるので、そこのところをどう考えているのかが物足りなく思いました。

ただ、成長ぶりがよく見えるので、ベンチャー終焉ムードがある中で、チェリーベイブがこれからどう発展していくのか、千葉さん自身がどのような活躍を見せるのか、今後が興味深いです。

☆ 目次 ☆
序 章 : さらばじゃ、芸能界
第1章 : OL、のようなもの
第2章 : 「有限会社チェリーベイブ」誕生
第3章 : 「社長チバレイコ」な日々の始まり
第4章 : 有限会社から株式会社へ
第5章 : 社長業はつらいよ
あとがき: チェリーベイブと私と、そしてみんなと

☆ 著者略歴 ☆
1975年、大阪生まれの福島育ち。株式会社チェリーベイブ代表取締役。デジタルコンテンツ&プロジェクトデザイナー。1991年に芸能界デビューを果たし、”電脳アイドル・チバレイ”として人気を博す。絶頂期にあった1995年、「性にあわないから」という誠に分かりやすい理由で芸能界を引退。デジタル系企業チェリーベイブを設立した。現在はゲーム開発に全力を傾けている。著書に『上京』、『チバレイのおへそ』など多数がある。

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