『起業成功のための事業計画策定の理論と実践』レビュー(早稲田大学システム科学研究所叢書)

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今回取り上げるのは、起業する際に重要になる「事業計画書」に関する本、「起業成功のための事業計画策定の理論と実践」です。

同種の本は非常に多いですが、この本の特徴は、学者の方々がまとめているので、きちんと論理立てて、わかりやすく紹介されているとことです。本当によくまとまっています。感心です。(松田修一、柳孝一、大江建、白倉至 著、白桃書房、1998年3月26日発行)

早稲田大学では、1995年から起業をテーマにした授業が展開されています。そこで行われた講義をまとめて再構成されたのが、この本です。なかなか意欲的な試みだと思います。

従来、学問の世界で取り挙げられてきたのは「中小企業論」あるいは「中小企業経営論」と呼ばれるものです。中小企業とベンチャー企業とでは、どこが異なるのか、となるといろいろ見方は分かれるでしょうが、ベンチャー企業の研究をする上では、どうしても従来の「中小企業論」では対応しきれない部分が生じてくるわけです。

そんなことから、第1章「事業機会の創造と市場戦略の策定」では、中小企業論に代わる理論として「ベンチャー企業経営論」が展開されています。そこで「ニュービジネス成功の四面体理論」というものを打ち出しているのですが、これが見事なまでによくまとまっています。

私はいままで、本やセミナーなどを通じ、さまざまな成功事例を見聞きしてきました。そうすると、成功の条件に共通するものがある反面、成功へのアプローチの仕方に、いろいろな違いがあることもわかってきます。

例えば、経営者のタイプにより、事業そのものの性格はもとより、事業の進め方も如実に変わってきます。そうすると、自分の資質を考えた上で、どのような事業展開ができるのか、あるいは自分に不向きな事業展開方法は何か、といったことを考える必要も出てきます。

また、いくつもの事例を見ていくと、成功する経営者に共通してみられる条件が、おぼろげながらもだんだん見えてきます。

これらがうまくまとめられていて、感心させられました。いろいろな事例を見てきた方からすると、「うんうん」とうなづけるのではないかと思います。

第2章以降、事業の着眼点や、具体的な事業計画の策定法がまとめられています。ここも、類書には見られないわかりやすさで、順を追って簡潔に述べてあります。この本を横に置きながら、計画書づくりをするといいかもしれません。

以前、あるベンチャーキャピタリストの方が、
「事業計画書を見て、その人と15分も話をすれば、その会社が成功するか失敗するかは、ある程度は判断がつく」
と言っていました。

担保が無ければ、お金は貸してくれません。人も金も無い起業家にとって担保財産となり得るものは、「事業への意欲」「夢」「努力」などが挙げられるかもしれません。しかし、現実問題、実際にお金を出す側の心理として考えると、いざ投資・支援するというときに、その見極めの材料として、「信頼できる担保財産」となるのは、やはり「事業計画書」であるように思います。

経団連は今月18日、「大学や企業はもっと起業家精神を発揮すべきだ」という緊急提言を発表しています。安易な起業の失敗が見え始め、ベンチャーブームの終焉が叫ばれています。学生の公務員・大企業優先への傾向が高まりを見せているという話もあります。そんな中だからこそ、夢や希望を掲げつつも、きちんと地道に事業計画書を練るという、「熱さ」と「冷静さ」の両立した起業家の登場が望まれているのかもしれません。

☆ 著者略歴 ☆

◆松田修一氏…早稲田大学アジア太平洋研究センター教授 日本ベンチャー学会副会長
◆柳孝一氏……早稲田大学アジア太平洋研究センター教授 日本ベンチャー学会理事
◆大江建氏……早稲田大学アジア太平洋研究センター客員教授
◆白倉至氏……早稲田大学アジア太平洋研究センター講師 元ケンタッキーフライドチキン常務取締役

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