週末の休みを利用して、オペラを観に行ってきました。私が見たのは、ヴェルディの歌劇「椿姫」。
もともと観劇の趣味があるわけではありません。中小企業の経営者としては、会社の存立のためにもどうしても仕事ばかりせざるを得ないのが実状です。ただ、そのままだと世界が狭小化してしまいます。
そこで「オペラ」というわけです。自分に刺激を与える意味でも、また人間としての世界を広げる意味でも、何か仕事とは関係の薄いことで、文化的な香りのする異世界を見てみようと思い立ったためです。
ヴェルディの歌劇「椿姫」は、初心者にもわかりやすく親しみやすいとされているものです。オペラは全くの初めてで、予備知識も全然もちあわせていないので、入門者向けのものを選び、事前にストーリーを簡単に把握した上で観に行きました。
原題は「ラ・トラヴィアータ」と言い、「道をはずした女」(!)という意味だそうです。物語は娼婦の失恋がテーマ。舞台は、美しく派手な社交界での活躍から、さびれた自宅で病魔におかされて迎える晩年までが描かれます。
オペラの世界を知らないので、内容についていけないのではないかと思いつつ開演。三幕あるのですが、あっという間に一幕終了。シャンパン休憩。第二幕が開演。いつの間に、またシャンパン休憩。第三幕スタート。感動の場面を迎えて、拍手喝さい。全部で三時間程度あるはずなのに、知らず知らずのうちに引き込まれて、時のたつのを忘れてしまいました。(飲み過ぎだからでしょうか?)
日本語は字幕のみですが、ストーリー展開もきちんとわかりましたので、ついていけないことは全くありませんでした。
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16世紀末に、イタリアで宮廷と貴族の娯楽として姿をあらわしたオペラ。明治時代にドイツに留学した森鴎外は、手紙の中でこれを「西洋歌舞伎を見た」と表現したそうです。
もっとも、オペラと歌舞伎には、厳密には相違点も少なくないようです。
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< 歌 舞 伎 > : < オ ペ ラ >
音楽の比重の違い : 物語の作者が優位 : 作曲家が優位
歴史的背景の違い : 町人芸術として発達 : 貴族芸術として発達
視覚の違い : 横長の飛び出す絵巻物 : 高さと奥行きのある立体絵画
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ただ、音楽的要素と視覚的要素を組み合わせ、最大限の効果を狙った総合芸術であるという点においては共通していますから、表現としてはわかりやすいと思います。「オペラってどんなもの?」という点では、想像しやすい比喩だと言えるでしょう。
まず圧倒されたのは、歌声の力強さと美しさでした。オペラの作曲家は、特定の歌手の能力を考慮して作曲することが昔から珍しくなかったそうですから、当然なのかもしれません。ある部分の能力に秀でた歌手が存在しない時代には、その名作が再演不能になるという可能性まであるわけです。
オペラにとっての歌手の重要性、歌手の能力が与える影響の大きさ、それゆえに大変すばらしい声をもつ人のみが演じることができるという希少性。これはすごいものだと思いました。
最後の最後の名場面が終わった瞬間、外国人の方でしょうか、客席から「ブラボー!」という歓喜の声があがりました。「無理も無いな」と、本当に感じました。狙って叫んだという感じではなく、言いたくなくても興奮のあまり心の底から思わず出てしまった、という感じの迫真に満ちた声だったのです。
視覚と聴覚を総合的に刺激するインパクトをもち、聞き手に強く迫るものがあるわけですから、これが政治に利用されてきたのも当然のことなのかもしれません。独立運動を刺激するオペラが検閲の対象になったり、逆にヒトラーがワーグナーのオペラを反ユダヤ主義の促進に利用したり、歴史をはるかにさかのぼっても、王侯貴族の結婚式に活用されたりしてきたわけです。
インパクトの大きさ、影響力の大きさとは一体なんだろうと思いました。「人に影響を与えるもの」、しかも「長い歴史の中で、かわらずに影響を与え続けるもの」の重みです。
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純粋に娯楽として楽しむことに加えて、「人に影響を与えるもの」を学ぶことも大事なのではないかという気がしました。
また、若い頃から経験しておかないと「楽しみの選択肢が広がらない」という点で機会損失になるというか、単純にもったいないという印象も受けました。
いつもと違う環境にふれること、しかも日常よりもちょっとだけでも背伸びして新しい世界をのぞいてみること。言い過ぎかもしれませんが、そうした冒険というものが、思わぬかたちで人間の幅を広げるようになるのではないかと思うのです。(と期待しているのですが)
オペラというとどうしても敷居の高さを感じてしまいますが、くわずぎらいにならず、一度ためしに観に行くことをお薦めします。 参考までに「オペラの専門家・愛好家11人アンケート」という調査結果がありますのでご紹介します。「オペラを初めて鑑賞しようと考えている入門者に対しお薦めの作品」が列挙されています。
- 椿姫(ヴェルディ) 910
- カルメン(ビゼー) 740
- ラ・ボエーム(プッチーニ) 630
- トスカ(プッチーニ) 530
- 蝶々夫人(プッチーニ) 510
- フィガロの結婚(モーツァルト) 480
- リゴレット(ヴェルディ) 320
- アイーダ(ヴェルディ) 250
- 魔笛(モーツァルト) 220
- ドン・ジョヴァンニ(モーツァルト) 160
(出典:日本経済新聞、2002.9.21「NIKKEIプラス1」)
右側の数字は点数です。1位100点、2位90点と、順位が1つ下がるごとに配点を 10点ずつ減らし、10位以下はすべて10点として集計したものです。
海外作品の場合、外国語で歌われますが、舞台の横に電光式の字幕がつくので、理解できなことはありませんでした。念のため、事前にオペラ解説本などでストーリーを簡単に把握してから行くと、よりわかりやすく楽しむことができるのではないかと思います。