インドネシア残留日本兵|小野盛が死の8ヶ月前に語った期待と伝言

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今の若い皆さんは、日本語で何と言いますか、メンタル・ブルジュアガンが足りない気がしますな、当時の彼らと比べますと。

そう私に語ってくれたのは、「インドネシア残留元日本兵」の最後の生き残り、小野盛(さかり)さん(インドネシア名:ラフマット)です。2014年の春のこと。ちょうど小野盛さんがお亡くなりになる、わずか8ヶ月から10ヶ月くらい前のことです。

第二次大戦が終結しても日本への帰還を拒み、そのままインドネシアに住み着いた小野盛さん。その後、対オランダ独立戦争に参加されるわけですが、静かで、かつ朴訥とした語り口。でも語る内容には、すさまじいパワーがありました。

インドネシア残留日本兵|最後の生き残り、小野盛さんに会ってみた。
「インドネシア残留日本兵」の最後の生き残り。今年で95歳を迎える小野盛(おの・さかり)さん、インドネシア名:ラフマット小野)のお宅にお邪魔す...

ちょうど今日8月25日は、小野盛さんが94歳でお亡くなりになられた日。早いことに、今日で丸一年が経過します。テレビ「世界の村で発見!こんなところに日本人」でのyoutube映像も含めてご紹介します。




インドネシア語で暮らす小野盛、日本語の単語を忘れることも

インドネシア残留日本兵 小野盛 ラフマット小野

【写真:94歳とは思えない程、たくさんの話を聞かせてくれた小野盛さんと】

戦後のインドネシア暮らしが長い小野盛さん。ご家族の皆さんとも、インドネシア語で会話をされていました。

インドネシア残留日本兵|小野盛さんとインドネシア語で会話してみた。
今日は、「インドネシア残留日本兵」の最後の生き残り、今年で95歳を迎える小野盛(おの・さかり)さんのお宅にお邪魔しました。インドネシア名は、...

私との会話では、主に日本語を用いてくださいましたが、たまに日本語の語彙が思い出せないこともありました。

「メンタル・ブルジュアガン」もその一つで、これはインドネシア語で「闘争精神」を意味する単語です。

日本語を思い出せないことに苦渋の表情をされながら、「渡邉さんは、メンタル・ブルジュアガン、わかりますか?」と。「はい、インドネシア語で闘争精神という意味ですよね」と答えると、ふと安心した表情になって、話を続けてくれました。

インドネシアの若者に対する小野盛の期待と苦言

小野盛さんは言いました。
「現代の若者はメンタル・ブルジュアガンが足りない、当時の彼らと比べると」

よく「今どきの若者は・・・」という言説がありますが、小野盛さんが語っていることは、そういう薄っぺらいものではありません。ここでいう「当時の彼ら」というのは、インドネシアの独立戦争で身を賭して戦った若者たちを指します。

日本がインドネシアを占領する前は、オランダの植民地でした。日本が撤退した後に、オランダは再上陸して、再び植民地化しようとしました。これに反撃すべく、多くの若者が立ち上がったのです。

インドネシア独立戦争に参加したからこそ語れる壮絶な現場

インドネシア 英雄の日 スラバヤの戦い 激しい戦闘の様子
【写真:スラバヤでの激しい戦闘の様子を示す像】

インドネシアの独立戦争に参画した小野盛さんは、当時の様子をまざまざと私に語ってくれました。

インドネシアの独立を果たすため、そして、再びの植民地化を避けるため、多くの若者が散っていきました。小野盛さんは、言いました。

日本語で、無鉄砲という言葉がありますな。私は独立戦争でインドネシアの若者を見て、もうなんとも言えない気持ちになりました。

まさに武器をもたず、素手で敵陣に向かって突き進むんです。あぁ、これがまさに無鉄砲という意味なのかと。これはちゃんと彼らに戦い方を教えなきゃいかんと思いましたですね。

自らの尊厳のために、まさに命を賭してまで勝ち取ろうとした独立。それこそ無鉄砲なまでの若者・・・。小野盛さんは彼らを見て、心の底から衝撃を受けたと言います。それを「メンタル・ブルジュアガン」と表現したのでした。

小野盛はインドネシアの若者世代をどう見るか?

それに比べてしまうのであれば、現代の若者は「メンタル・ブルジュアガン」が足りないと。

時代環境が違うだけに、たしかにそうならざるを得ないという側面はあるでしょう。それも踏まえて小野盛さんは言いました。

インドネシアは、だんだん豊かになってきて、いろんな点で、まさにこれからスタートしたという感じですね。私はこれからのインドネシアがとても楽しみです。

でも、一部のインドネシアの人たちが、だんだん贅沢を覚えましたでしょう? 贅沢を覚えますとね。人間はダメなんです。

この時、私は、これはおそらく小野盛さんが残したいメッセージなのではないかと感じました。

「メンタル・ブルジュアガンを忘れてはいけない」
「贅沢に走っていはいけない」

メンタル・ブルジュアガンによって出来上がったインドネシア。まさにこれからようやく「スタート」が始まろうとしている。豊かになるにつれて「贅沢を覚える」という落とし穴が待ち構えている・・・。

でもそこでふんばって、「メンタル・ブルジュアガン」を大事にしてほしい。そういうことだと私は理解しました。それはインドネシアの若者だけでなく、日本の若者に対してのメッセージでもあるように感じられます。

小野盛の波乱万丈な人生に裏付けられたメッセージは深い

これを言葉だけで見ると、「老人のお小言」に思う人もいるかもしれません。でも実際に小野盛さんご本人と対面し、静かに深く深く語られる小野盛さんの姿を見れば、このメッセージの深淵を感じ取れるはず。

それをブログできちんと伝えきれない私の文章力には忸怩たるものがあります・・・。

小野盛さんの波瀾万丈の人生の中で、まさにその日々の苦労と格闘の中でこその「知恵」なのだろう。私はそう感じ取りました。

テレビ「世界の村で発見!こんなところに日本人」出演時の小野盛の名言とは?

小野盛さんは、死期が近いことを感じ取っているかのごとく、晩年に、メディアへの露出を加速させたように思います。その一つに、日本のテレビ番組「世界の村で発見!こんなところに日本人」があります。

この中で、女優のかたせ梨乃さんが、こんな質問をするシーンがあります。

「インドネシアに残って良かった事って何ですか?」

良かったも悪かったも、そういう感情は無いですな。
悲しみとか残念とか、そういう気持ちはありませんね。

これは運命だという風に心得ています。

これは、本当に深いと思いました。ちょっとした出来事に一喜一憂するのではなく、「これは幸せだ」と有頂天になることもなく、「これは不幸だ」と過度に落ち込んだり他を責めたりするのでもなく・・・。

メンタル・ブルジュアガンの気持ちをもって、与えられた一日また一日を、真剣に生ききること。その積み重ねでしか無いのだと。

インドネシア独立後もたくさんの苦労を味わった小野盛

「いやぁ、本当に苦しみましたわ」

上記Youtube映像の8:25のあたりで、小野盛さんはそう述懐されています。

私自身、小野盛さんからは、いろいろなお話をうかがって、独立戦争で左腕を失ったことや、戦後にジャカルタで暴漢にナイフで襲われて、大量出血した時のことなど・・・。

そんな話をする小野盛さんも、誰かを攻めたりするのではなく、自分がどう行動し、どう解決したか、それをゆっくりと語ってくれました。

小野盛さんの家には、いつもたくさんのご家族がいました。大家族に囲まれて、幸せそうに暮らしている姿が印象的です。東ジャワの、さわやかな程に涼しくて、美しく、また、のどかな高原地帯に囲まれて。

幅広く継承されるべき、小野盛の思い

今回、小野盛さんが亡くなってちょうど一年。

小野盛さんからうかがった、このメンタル・ブルジュアガンの話。とても印象深く、いつかブログに書きたいと思っていたのですが、お亡くなりになった際は空虚な気持ちになり、ブログに書く気力がわきませんでした。

いつか書きたいと思いつつ、ついつい、そのままに。

でも、小野盛さんからの大事なメッセージ。私自身が、よすがとするばかりでなく、これを知って感化される方もいるのではないかと思い、今日の命日を機に、当時のことを思い出してまとめてみました。

小野盛さんの思いが、少しでも多くの方に伝われば幸いです。なお、これは「聞き手」だった私がまとめたものなので、「聞き違い」や「解釈違い」があるかもしれない点だけ、ご注意ください。

小野盛が暮らしたインドネシアの東ジャワ州バトゥの場所は?

小野盛さんのお住まいは、私の住むマラン(Malang)から約20キロの「バトゥ」(Batu)という街。

これだけ近くに、これだけの「市井の偉人」がいたことに、その奇跡を痛切に感じます。

まさに現代のサムライだったような気がします。あらためて、小野盛さんのご冥福をお祈りしています。

【参考】残留日本兵や日本人墓地に関するブログ記事と書籍

このテーマに関連するブログ記事は、以下のとおりです。

写真集『インドネシア残留元日本兵』独立の英雄110名の姿が語るもの
「インドネシア残留日本兵」。 第二次大戦をインドネシアで戦った後、戦争が終わっても日本に帰らず、インドネシアに残ることを選択した日本人...
インドネシア残留日本兵|東ジャワ州マランの「日本人慰霊碑」で墓参
私が住むインドネシア、東ジャワのマラン(Malang)には、「日本人慰霊碑」があります。オランダ占領期から存在する墓地の中に建てられているも...

書籍としては、小野盛さんについてを取り上げた歴史書としては、こちらがオススメです。

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また、「残留日本兵」全体については、同じ著者のこちらをオススメします。

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