いま「ハラル」が日本でも注目を集め始めています。今回のテーマは、ホテルのハラル認証について。「ハラル対応ホテル」って聞いたことはありますか? ハラルというと「ハラル対応レストラン」のように「食べ物」の側面が注目されがちですが、ハラルの対象は「食べ物」だけではないのです。
日本を観光で訪れる「訪日観光客」は、今後次第に増えていくことが予想されています。そんな中、日本のホテルのハラル対応、ムスリム対応の現場はどうなっているのでしょうか?
そこで今回は、ハラル対応ホテル、具体的には「ムスリム・フレンドリー認証」を受けたホテルとして、千葉の幕張にあるホテルスプリングス幕張の取り組みをご紹介します。
目次
ハラル対応ホテルとは?ムスリム対応が注目される理由
「ハラル」は、イスラム法で認められた「こと」や「もの」を示す概念。主に「食べても良いもの」としての「ハラルフード」が有名ですが、「ムスリムにとって、イスラム法の見地から心地よく過ごせる環境」の整備全般を総称して、「ハラル対応」ということもあります。
日本で「ハラル」という考え方が注目を集め始めているきっかけは、これからイスラム圏の人たちを日本に観光誘致するにあたり、いかに「ハラル対応」を行うべきか、ということ。とりわけ観光業界を中心に話題になっているテーマです。例えば、「ムスリムを迎え入れるにあたり、ホテルはどう対応すればいいのか?」ということですね。
今回、日本で「ハラル認証」を取得した「ハラル対応ホテル」に訪問し、ハラル対応された客室を見学する機会がありましたので、写真とともに、ご紹介したいと思います。
【写真:ホテルスプリングス幕張の入口】
「ムスリム・フレンドリー認証」を受けたホテルスプリングス幕張
今回ご紹介するホテルは「ホテルスプリングス幕張」。
日本アジアハラール協会からハラル認証として、「ムスリム・フレンドリー認証」を受けています。具体的には、ホテルの2フロア相当(約50室)について、いつでもハラル対応のセッティングが可能な客室として、営業をされています。
場所は、千葉の海浜幕張駅のすぐ近く。
ハラル対応ホテルの「客室」、その特徴は?
ハラル対応ホテルの「客室」とは、どんな特徴があるのでしょうか? さっそく写真でご紹介しましょう。
【写真:見学対象となった客室の入口】
【写真:スタンダードルームに設置された礼拝用のマット】
【写真:デラックスルームに設置された礼拝用のマット】
いずれの客室においても、メッカの方向に向けてお祈りできるようマットが設置されていました。「ハラル対応ホテル」の客室の特徴は、以下の通りです。
・礼拝用マットの設置 ・聖地メッカの方向を示すサインの設置 ・1日5回の礼拝時間を示した時刻表の設置 |
【写真:机の引き出しに貼り付けられた、メッカの方向を指し示す矢印】
【写真:1日5回のお祈りの時刻表】
なお客室外には、礼拝ルームも設けられていました。
【写真:礼拝室の入口】
【写真:礼拝室の室内の様子】
ひょっとすると、「たったこれだけ?」と思うかもしれません。
私自身、「ハラル対応ホテルの客室」と聞いて、「いったい、どんな部屋だろう?」と期待してみたのですが、「これだけ?」というのが正直なところ。
でも・・・、「たったこれだけ」についてすら整備されていないというのが、日本の多くのホテルの実情なんですよね。イスラムの人たちにとってみれば、これだけでも、ずいぶんと安心感を覚えるというのに。
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礼拝用マットを設置し、
メッカへのサインを設置し、
礼拝の時刻表を設置する。
この程度であれば、どのホテルでも取り組めるレベル。ちょっとした手配で、簡単にできることです。でも、イスラムの人たちからすれば、これでも充分にありがたいこと。どんなホテルでも、すぐにできること。やらないのはもったいないですよね。
イスラム客を誘致したい宿泊施設であれば、これは、すぐにでも取り組んで、すぐにでもイスラム向けにPRすべきだと言えそうです。
ハラル対応は「ハードの整備」に加えて「ソフトの整備」も
一方で、それなりに手間がかかるものもあります。
例えば同ホテルでは、ホテル全体の取り組みとして、客室従業員のイスラム圏ゲストに対する対応研修をスタートさせています。前述したような「ハードの整備」だけでなく、ゲストに適切な対応をする「ソフトの整備」も不可欠。「教育」は、形だけでなく、時間のかかる分野です。
でも、やろうと思えばできる範囲内のことだと思います。
ホテルの経営陣が「イスラム対応をしよう」と決めれば、動き出せる範囲内であるに違いありません。
ハラル対応は単なるイスラム対策ではない
統計を見ても、イスラム圏の観光客は増えています。また、世界で見た「イスラム人口」も増えており、今後のさらなる伸びが期待されています。
一方、イスラムといえば「中東」というイメージを持たれがちですが、世界で最もイスラム人口をかかえる国は「インドネシア」。アジア圏にも、多くのイスラムがいます。
中東もアジアも、伸び盛りのエリア。イスラム対応をすることは、単なるイスラム対策ではありません。アジア圏のイスラムに快適に過ごしてもらうためにも、イスラム対策は不可欠と考えます。
ホテルがハラル認証を取得するハードルの高さ
ハラル認証を取得した日本のホテルは、まだ少数派。そうした中、同ホテルが率先して認証を取得して、ハラル対応ホテルになったことには、敬意を表したいと思います。
また同ホテルは、レストラン部門、キッチン部門についても、ハラル認証を取得しています。客室整備に比べると、キッチンにおけるハラル認証は、準備すべきことが非常に多く、お話を聞いてみても、認証取得のハードルは高いというのが印象です。
【写真:セントラルキッチンの現場には、多くのプレス関係者が集まりました】
でも、ムスリムにも安心して過ごせる環境の整備は、これからの時代の要請でもあります。こうしたハラル対応への動きは、徐々に増えてくるでしょう。
ハラル対応・ムスリム対応は特別なことではない
【写真:ハラル対応キッチンの入口にある注意書き。ハラルの厳格さが伝わってきます】
今回、客室の写真を紹介しました。客室をハラル対応にするということは、それほど特別なことではないということがおわかりいただけると思います。
(ただしキッチンのハラル対応は結構大変だと思います)
「ハラル対応」を進めることは、「ムスリム・フレンドリー」を進めること。今後の国際交流を考える時、「ハラル」を考えることは、より一層重要になるものと思います。
今回の客室の事例を通じて、「すぐに簡単にできることもあるんだよ」ということが、ホテル関係者の皆様に伝わればと願っています。ハラル対応ホテル、今後も要注目です。
加速するホテルのムスリム対応、訪日客対策で競争は激化へ
後日の追記です。日本でもホテルのハラル対応やムスリム対応に関心が向かう中、「シェラトン都ホテル大阪」等を運営する近鉄グループホールディングス(GHD)は、全部15の直営ホテルについて、イスラム教徒向けの「ムスリム対応」を実施することを発表しています。
関西圏では、2019年現在で、イスラム圏からの訪日客に強いホテルはまだ少数派のようです。外国人宿泊者率の高い関西のホテルとしては、大阪市の「スイスホテル南海大阪」が約9割、「セントレジスホテル大阪」が約7割という数字を出しています。しかし、中国人客などが占めており、イスラム圏に強いというわけではないようです。
近鉄グループホールディングスのホテルを見ると、外国人宿泊率は2017年度で約36%という低水準にあります。こうした背景もあって「すべての直営ホテルがイスラム対応済み!」ということで差別化をはかる戦略をとることになったようです。
「観光立国」を目指す日本への訪日客は、今後もさらに増えることが予想されています。イスラム圏からの訪日客にどれだけアプローチができるのか、ホテルの競争は激しさを増しそうです。
【参考】ハラルに関するブログ記事
「ハラル」に関連したブログ記事をまとめました。こちらも、どうぞ。
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【 時の運と人の縁を極める日々の記録 】 渡邉 裕晃
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