インドネシアの最高裁で、まさかの判決が出ました。
2010年に商標登録し、2014年10月15日にジャカルタのタンゲランで開業したインドネシアのIKEA(イケア)。
イケアは、世界的に展開する家具メーカーとして有名ですが、同社のインドネシアにおける商標が、2013年末に商標申請したスラバヤのラタニア・カトゥリスティワ社に移管されることになりました。
いったい、どうしたらこんなことが起きるのか?というびっくりなニュース。海外からの投資を増やしたいインドネシアのジョコウィ政権にとって、海外からの投資を失速させかねない判決です。
目次
現地代表メディアKompasが報じた、イケア商標訴訟の内容
【画像:「イケアの商標はインドネシアが所有」と題するKompasの記事より】
インドネシア有力メディア「Kompas」が、AP通信の報道に基いて、
「イケアの商標はインドネシアが所有」Merek IKEA Milik Indonesia – Kompas.com(5 Februari 2016 | 21:50) |
と題する記事を展開しています。
読者からの反響のコメントを見ると、「なんだこの判決は?」「恥ずかしいことだ」と、最高裁判決を批判する内容が集まっています。
Kompasによれば、事の経緯は次の通り。
スウェーデンの大手家具会社、イケアは、インドネシアにおけるイケアの商標を失った。なぜなら、インドネシアの最高裁判所が上告を棄却して、ラタニア・カトゥリスティワ社(Ratania Khatulistiwa)をイケアの商標の公式な所有者として認定したからだ。
ラタニア・カトゥリスティワ社は、イケアの商標を2013年12月に申請している。この名称は「Intan Khatulistiwa Esa Abadi」の略称で、籐(ラタン)産業を示すものだ。 最高裁判所によれば、イケアは2010年から登録をしたが、3年連続で活用してこなかった。 規則によれば、商業目的の商標が3年連続で利用されなかった場合、その商標は取り消しが可能だ。 イケアは、ジャカルタの近くにアウトレットを2014年の初旬に開設した。 最高裁判所の報道官によれば、構成する3人の裁判官のうち1名が、ラタニア社より大きいはずのイケアに対して商標の付与を拒んだ。 残念ながら、この最高裁判所の決定を、2社がどう受け止めているかは明らかになっていない。スラバヤにあるラタニア社の高官はコメントを拒否した。イケアインドネシアもまた、コメントの要求に対する即答を避けた。 ラタニア社は、商標の紛争の訴状を2014年の半ばにジャカルタ商事裁判所へ提出している。イケアの店舗が建設中の時だ。 情報によれば、スウェーデンのイケアは創業者の名前と出身地の名前からとった略称で、創業者イングヴァル・カンプラード 、そしてエルムタリッド農場とアナグリッド村からくるものだ。 現在のところ、イケアは様々な国でフランチャイズシステムによる店舗展開をしている。1980年代には、イケアグループはオランダに本拠を置く組織によって所有されていた。 |
これについては、
「インドネシアは、けしからん」
「だからダメなんだよ」
「いつもこうだ・・・」
などの落胆の声が聞こえてきそうです。
今回の裁判官決定にはインドネシア国内からも多くの批判が
私自身も、よく日本の人からインドネシアを批判するコメントを聞かされて、その度に寂しい気持ちになるのですが・・・、
ぜひ注目してほしいのは、Kompasの当該記事には、すでにたくさんの批判的コメントが寄せられているということです。それも、インドネシアの皆さん自身から。
どのコメントも「裁判官決定には驚きを禁じ得ない」という内容に。
ここで、いくつかを紹介しましょう。
つまりはインドネシア側がお金がほしいということだろう。イケアの名前をパクったのがインドネシア側だというのは明らかだ。
不条理だ。こんなやり方で、経済はどうやって前進できるというんだ。 あとでもしインドネシア人が、アクティブでないという理由でFORDの名前を商標申請したら、どうなるの? 自分たちの国でこんな状態を見るのは頭が痛いよ。明らかに変だ。 ラタニア社にはきっと良い意図はないね。99%言えるのは、あとできっとイケアに商標を買ってくれと言うはずさ。本当なら国の発展のために、法律がインドネシア人の創造力を守り、かつ発展させるべきだ。でもインドネシアの裁判官は、創造力を発展させようという意図はなく、ただ悪知恵を活かそうということしか考えていない。 この裁判官たちはバカだ。普通の人ならイケアはスウェーデンの家具メーカーの商標だと知っているはずだよ。 ほら、これが解雇を増やす一例だよ。イケアのような大企業がインドネシアから出て行くのを後押ししているんだから。イケアという名称はすでに昔から有名だ。いったいラタニア社の頭の中にどんな信念があるっていうんだ、イケアの名前の商標を登録してさ。最高裁判所はなんでこんなバカなことができるんだ。 俺も新たに商標申請をしたいんだけどできるかな? これが、俺の選んだ名前の候補だよ。「これは極めて狂った決定だ」の頭文字をとってIKEA、鍋の商標にね。「宇宙からから来たハリボテ人形裁判官」の頭文字をとってHONDA、伝統的な3輪車自転車ベチャを作る商標にね。 裁判官たちは、もう一回学校に行くべきだよ、僕も同意だ。でも、金で買った卒業証書じゃダメだよ、ハハハ。 法治国家だというけどさ。でもその法律はいつもおかしい。だんだんこの国はめちゃめちゃになるよ、おかしな裁判官が多くて。明らかなのは、裁判官たちがバカだということだ。 インドネシアだけだよ、こんな官僚主義があるのは。イケアは海外ではすでにいかなる困難もなく運営されているもので、関係する国家にとって強い収入になっていて、その国の労働者を増やす役目もしている。 明らかに、インドネシアの裁判官たちはもう一回学校に通い直すべきだよ。 海外からの投資はどんどん逃げ出すだろうね・・・ 泥棒が誇りに思われるのはなんで? 商標は、非常に明らかなことに海外企業のもので、インドネシアに規則によって奪われたようなものだね。本当なら、Kompas誌は、この問題がいかに恥かしことかを書くべきで、いかに誇らしいかを書くべきではないよ。 インドネシアの法律システムの混乱ぶりがこの事例に反映されているね。インドネシアの法律の潮流が、時として非常にバカバカしく、プロ意識を甚だ欠いていることは、日増しにみんなの目に明らかになっているよ。愚かと言いたくなければ、思慮が浅いというけどね。 こんなの明らかだよ、ラタニア社に悪意があるのは。商業世界におけるゴロツキ・ヤクザ主義の実践だね、裁判官の支持もついて。とっても恥ずかしことだよ、海外メディアで取り上げられるまでになって。 あとで結果を見てご覧よ。彼らはインドネシアから逃げ出すよ。そして大量解雇が起きるんだ。失業を増やして、そして政府は「楽しんで」をコメントする努力をするだろうさ。 他人の商標を使って誇りに思うのはダメだ。ラタニア社は世界で競争することができるの?複数の国で展開できるような企業になれるの? たくさんの労働者を雇用することができるの? このインドネシアの裁判官は言うべきだよ、お金を払ったどちらの企業を勝たせたのかを。ふつう外国企業は裁判官に賄賂を送るなんて、できないさ。 ハハハ、これは名称の盗みだね。これは恥ずかしいことだよ、カンニングできるだなんて。 人の真似しかできない人たちが集まる国。裁判官の質が低くてこの国はもっとおかしくなるよ。 インドネシアで法学部と称するところは、IQとEQをテストして平均以上の人だけを採るべきだ。 |
インドネシアは法治国家ではなく、人治国家だという声
インドネシアは法治国家ではなく、人治国家だと言う人もいます。法に則った運用がなされるとは言え、場所や管轄、時には担当者によって、ルールが恣意的に解釈されて運用されるケースが散見されるためです。
今回の商標に関する判決については、記事にある
規則によれば、商業目的の商標が3年連続で利用されなかった場合、その商標は取り消しが可能だ。 |
という部分が正しければ、たしかに「法に則った適用」で、取り消しは可能と見ることもできます。
ただし、文言を見る限り、「取り消しが可能だ」というだけであって、「取り消されなくてはいけない」というルールではなさそうです。
世界的な規模で展開するイケアの存在
また、「商業目的の商標が3年連続で利用されなかった」という点についても、イケアのインドネシア展開の開業準備においては、許認可などでも時間の遅れを被った点があったようでした。
となれば、イケア社の「世界的展開」と、「歴史的展開」に加えて、「現地での開業にまつわる時間的問題」などをふまえれば・・・、
「商業目的の商標が3年連続で利用されなかった」という点は、「取り消しをしなければいけない」ほどの理由とは言いがたい、そう解釈されてしかるべきと考えます。
(法律の素人なりの判断ですが)
インドネシア進出への足かせにならないか?
やはり心配となるのは、こうした判決が、インドネシアへの投資を検討している企業に対し、冷や水を浴びせる結果になりかねないということ。また、インドネシアに進出済みの企業にとっても、こうした法解釈が実行されてしまうことについては、大きな不安材料ともなりかねません。
海外からの投資を集めるべく、規制緩和を進めたり、ロードマップを策定するなどの作業を進めている最中での思わぬ判決。
インドネシアの経済成長を進めるために、より一層の開放をするべきか、あるいは、より一層の国内産業の保護をすべきか。インドネシア政府としては、微妙な舵取りを迫られることになりそうです。
期待されるジョコウィ大統領のリーダーシップ
本件で思い出されるのは、昨年12月、突然発表された衝撃的なニュースです。インドネシア運輸省が、オンラインにもとづいて運営されるバイクタクシーやタクシーについて、その運営を禁止するという決断。
その理由は「公共輸送機関としての規則を満たしていない」からというものでした。この際も多くの反響があったことから、大統領が迅速に動き、再び禁止を撤回するという結果になりました。
この時のジョコウィ大統領のリーダーシップは評判になり、私も次の通り、ブログにまとめています。
幼くして父親の家具工房を手伝い、自身もまた、家具製造会社を経営していたというジョコウィ大統領。今回のIKEA商標問題に対して、そのまま黙認をするのか、何らかの動きをするのか、注目されるところです。
■追記:インドネシアのIKEA商標に関する最高裁判決について、その後「続編」を書きました。こちらもどうぞ。
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【 時の運と人の縁を極める日々の記録 】 渡邉 裕晃
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