ある上場会社のオーナー経営者の方とお話ししていた時のこと。「若くして上場会社の社長になった人はかわいそうだ」という話になりました。
経験や能力が伴わないうちに、常に責任感の強く求められるトップに立つことになります。経験不足や知識・知恵不足は隠さねばならず、誰かに素直に教えを乞うということが難しくなってくる、と。つまりは、張子の虎になってしまうケースが多いということでした。
会社を上場させた経営者というものは、パブリックな組織を生み出し、しかも責任を伴った資金をたくさんお預かりしているという、ある意味で大きな立場にあると考えられます。先輩格に当たる人からすれば、相手が若い人間であるとは言え、そういう立場の人間に対して教えを垂れるようなことは気が引けるという事情もあるのかもしれません。
優れた経営者であったり、事業を継続的に成長させている経営者の方々は、盛んに「素直に学び続けることの大事さ」を訴えているように私は感じています。それは、「どんなに上の立場にあっても常に学び、常に謙虚に前進しつづけなければいけない」ということが、それだけ余計に重要だということなのだろうと思います。
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私には幸いなことにたくさんのお師匠さんがいて、とてもありがたく思っていますが、師に学ぶという点では、一つ、印象的な出会いがあります。
80歳のおばあさまですが、なんと月収が1000万円という方です。とてもおしゃれに気を使われ、イギリス貴族の日本版(?)という雰囲気を漂わせた、小さくかわいいという表現がしっくりくる経営者の方です。
偶然、一緒にお食事をさせていただく機会があり、いろいろなことを教わりました。先人の知恵というのは、眼力があるというべきか、本当に示唆的なことが多いと、つくづく思いました。時折イギリスなまりの英語が飛び出しながら、いろいろ語ってくれました。
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そんな調子で、ご自身の体験談もふまえ、本当にたくさんの話を聞かせてくれました。実はその後、体調を崩され面会できなくなり、たった一回だけの偶然の出会いになってしまっています。それでも、非常に強烈な印象を与えるものでした。海外に行くとき、日本でも歴史に触れる時、いつもこのおばあさまから教えていただいたことを思い出します。
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私は、偶然が重なって、24歳という年齢で経営者になってしまいました。上司不在で、社内には私への教育係がいない状態になるわけですが、こういう出会いを経験するたびに、会社のトップという立場を離れて、本当に虚心になって学びたいと強く感じます。
それ以来、素直さや、永続的な学びの偉大さというものは、優れた先人との出会いだけでなく、歴史に触れる機会にも、折に触れて感じることができるようになりました。
時間や経験、苦労はもとより、仕事、収入などなど、何事かを極めている方、何らかの分野で頂点の領域にいる方からのお話も、とても刺激的です。
世界というものの、人間というものも、本当に深いと思います。そういう環境に意識的にふれる機会を増やす工夫が、きっと楽しい未来をつくる上でも大事なのだろうと思います。世界の広さを感じつつ、「まだまだ、学びだ」と思うこの頃です。
★追記
「高額納税者」の定義は「確定申告で所得税額が1000万円を超える」人とされています。正しい申告をはかる目的と、第三者のチェックを受ける意味で、毎年、該当する個人の氏名、住所、所得税額が税務署に掲示される制度になっています。
今回ご紹介したおばあさまは、そのリストにきちんと含まれており(つまり実体験を語られていたということ)実際に社長という肩書きでいらしたことを、追記しておきます。