今回のテーマは「ジャワ語」。インドネシアのジャワ島で使われている言語です。
インドネシアの公用語は「インドネシア語」。でも、インドネシアのジャワ人は、公用語ではなく、地方語である「ジャワ語」を使いたがる傾向にあります。
では、なぜジャワ人は公用語のインドネシア語ではなく地方語であるジャワ語を使いたがるのか・・・、というのが今回のテーマです。
photo credit: Java by Bicycle – Bike via photopin (license)
目次
ジャワ語を話す人たちは9,000万人も!!
私は現在、インドネシア、東ジャワのマラン(Malang)に住んでいます。インドネシアの公用語はインドネシア語ですが、ジャワ人同士が会話をする時は、たいていの場合はジャワ語です。
「ジャワ語」というと聞き慣れないことからニッチな言語だと思うかもしれません。でも調べてみると、ジャワ語話者って、9,000万人もいるそうですよ。主にジャワ島の中部と東部で使われている言語です。
ちなみに、南米にもジャワ語を話せる人たちがいます。「ええっ?」って思いますよね? 詳しくはこちらをどうぞ。
なぜジャワ語で会話をするのか?
以前、私はジャワの現地の人に、聞いてみたことがあります。
「なんでインドネシア語ではなく、ジャワ語で会話をするの?」と。
「もともと慣れ親しんでいる言語だから」
「インドネシア語を使うと、なんだか、かしこまった感じだから」
そういう意見をもらいました。
「大阪人同士が日本語の標準語で会話したら気持ち悪いでしょう・・・」
たぶん、そんな感じなのかなと。
「親しみ」という観点から言えば、たしかに、その地方同士の人であれば、その地方の言語で会話をした方が気持ち良いというのはわかります。でも、いろいろ聞いていて、「あぁ、なるほどな」と思ったのは、次の意見。
「ジャワ語はインドネシア語よりも語彙が豊かだから、細かいニュアンスまで、きちんと伝えられる」
私のジャワ語能力は、まだ「入門レベル」でしかありませんが、それでも、たしかにそうかも・・・と思いました。
多様性の中の統一をはかるツールがインドネシア語
インドネシアには、たくさんの民族と、たくさんの言語があります。書籍「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」で、私は次のように書きました。
(中略)
「インドネシア語」という共通語はあるものの、多くの人たちは地域ごとの「地方語」を話します。ジャワ語、バリ語、スンダ語・・・、日本の方言とは異なり、文法や言語体系がそれぞれに異なります。多くの人がバイリンガルで、話し言葉が違えば、見かけも違うという多様さ。(p32「多様なインドネシア」)
それほどまでに多くの民族と言語を1つの国家にまとめあげるには、共通の言語が必要だった。それが「インドネシア語」です。
誰でも簡単に習得できる言語である必要があったので、結果として、「世界一簡単な言語」とも呼ばれるようになりました。
(簡単だと思ってあなどっていると、後でしっぺ返しを食らうのですが)
誰でも習得できるような単純な言語であること。これを裏返して言えば、「細かいニュアンスまで伝えきれない」という弱点を持つことになります。
ジャワ語と英語を比べてみるというエピソード
これについて、先日facebookで面白い小話を見つけたのでご紹介します。
「Dunia Wanita Online」というfacebookページで見つけたもの。”BOSO JOWO KOK DILAWAN..!!” という題名で、あえてニュアンスが伝わるように意訳すると、次の通り。
「なんでジャワ語が英語なんかと比較されなきゃいけないわけ?」
少し英語を小馬鹿にしたような表現ですが、あえて誇張して訳しました。不快になった方はすみません・・・。「細かいニュアンスまで伝えきれない」という弱点の裏返し、つまり、いかにジャワ語は細かいところまで伝えきれる言語か。それがわかるエピソードになっています。
白人:「長老は、イスラム塾で教える時、なぜまだジャワ語の聖典を使っているのでしょうか? このグローバルな世の中にあって、なぜもっとレベルアップさせて英語を使うようにしないのでしょうか?」
イスラムの長老:「なぜなら、英語を使って教えるとな、コーランやハディス(ムハンマドの言行録)にあるすべての語彙を解釈しきれんのじゃよ。英語というのは実に単純じゃろう? ジャワ語というものは、非常に豊かで複雑な言語なんじゃ」
この白人は、長老の説明を聞いて、少し気に障ったようだった。英語は解釈するには不十分であり、ジャワ語に負けていると説明したからだ。
白人:「ジャワ語は非常に豊かで複雑な言語であり、かつ知識言語になれるとおっしゃいますが、あなたはどうしてそんなことが言えるのですか? 現代社会を見れば、英語こそがもっとも複雑な言語だという事実があるのに」
イスラムの
長老:「いや、ちがう! 英語というもんは、実に実に単純なもんじゃ。わしが例を挙げてみよう。 これを考えてみよ。水田にある、黄金の黄色をしたもの。英語人なら、なんと言うじゃろか?」
白人:「Riceです!」
イスラムの長老:「ジャワの人間なら、PariもしくはPantunと呼ぶじゃろう。
その稲は、収穫されるとGabahという名前になる。英語人ならRiceと呼ぶじゃろう。
Gabahは、皮がはがれるとWOS / BERASと名付けられる。英語人ならそのままRiceと呼ぶじゃろう。
稲のコメが、1つか2つはずれると、MENIRという名前じゃ。英語人ならそのままRiceと呼ぶじゃろう。
コメが調理されると、名前はSEGO もしくは SEKUL じゃ。英語人なら、まだRiceと呼ぶままじゃろう。
コメは、1粒だけなら、名前はUPOじゃ。英語人なら、またまたRiceと呼ぶじゃろう。
コメは、ちょっと長めに調理された場合、下の部分にあるものはINTIP もしくは KERAKと名付けられる。英語人はまだRiceと呼ぶ。
すでに乾いたコメであれば、名前はKARAKじゃ。英語人は、Riceと呼ぶままじゃ。
1つの単語だけでも、名前の解釈は様々な種類がある。でも英語はそれらを解釈することができぬ。こうしたジャワ語は、これほど単純な英語と比べたら、複雑ではない、緻密ではないなどと本当に言えるんじゃろうか?」
白人:「わかりました、わかりました・・・」
これは、まだジャワ語と英語という言語面での比較だけだ。もし言語ではなく、ジャワ人と英語人という人間としての比較をしたら、いったいどのような結果になるだろう・・・。
なお、この小話の出典はこちら。
“BOSO JOWO KOK DILAWAN..!!”Ada orang bule Australia datang ke pondok pesantren, dan bertanya kepada kyai…Bule : “…
Posted by Dunia Wanita Online on 2016年1月8日
ジャワ語の特徴は、細かくて豊かな表現力
題名と、最後の部分は、英語を小馬鹿にしているようで、人によっては、やはり不快に思う人もいるかもしれません。でも、ここに出てくる「Rice」という単語が、ジャワ語では、これほどまでにたくさんの表現があること。これはすごいことではないでしょうか?
もともとジャワは農民文化。歴史的に見れば、生活の中に占める「稲」の存在は非常に大きく、それゆえに語彙が豊富になったのだろうと想像できます。
もちろん、「だからこそ英語がダメでジャワ語が素晴らしい」なんてことを言うつもりはありません。
生活の中に占める存在が大きいものは語彙が豊かになるでしょうし、その反面、生活の中で重要な存在でなかったものや概念は、おそらくジャワ語の中では語彙が少なくなるでしょう。
実際、インドネシア語には、欧米の概念を中心にして、外来語が非常に多いです。欧米の概念という点では、ジャワ語についても同じはず。
上下関係を重んじるためには、複雑な表現力が必要に
ジャワ人は、なぜ公用語のインドネシア語ではなくジャワ語を使いたがるのか。
先ほどのエピソードはジャワ語と英語を比較したものです。でも、インドネシア語についても「単純さ」という意味では同じで、ジャワ語の方が、複雑な表現ができるということは事実。
また、インドネシア語と異なり、ジャワ語には、尊敬語や丁寧語があります。相手との人間関係や礼儀を重んじるジャワ文化の中にあって、それが必ずしも充分に表現しきれないインドネシア語は、ジャワ語のわかる人同士の会話では、やはり敬遠されるわけですね。
ジャワ語にチャレンジしてみよう!!定番テキストは?
というわけで、インドネシア語を学習中の皆様で、ジャワに関心のある方には、ぜひジャワ語にもチャレンジしてほしいです。
と偉そうに言いつつも、私自身、まだまだジャワ語は入門レベル。ジャワの人たちとの会話を、より濃密にしていくためにも、ジャワ語の勉強、これからも頑張っていきたいと思います!
このテーマは、まだまだ奥が深いので、いずれまた続編を書きたいと思います。
ちなみに日本で販売されているジャワ語の本は、以下が有名です。
(なかなか良い本が無いんですよね)
【参考】ジャワ語に関連するブログ記事
ジャワ語をテーマとするブログ記事を集めました。こちらも、ぜひどうぞ。
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【 時の運と人の縁を極める日々の記録 】 渡邉 裕晃
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