小さな会社を買うということ。その魅力やメリットについては、すでにブログに書いてきましたが、今回は「どんな事業なら買収する価値があるのか?」というテーマで解説したいと思います。
経営者になるという場合、今まではサラリーマンとして昇進をきわめるか、ゼロから起業するかの2パターンでした。でも時代環境の変化により「小さな会社を買う」ことで経営者になるということが可能になっています。メリットもたくさんあります。素晴らしい手段だし、今後もチャンスは増えるでしょう。
でも実際に会社を買うとして「いい会社」とはどんな会社なのでしょうか? その「いい会社」は、すぐに見つかるものなのでしょうか? 探し方についてはすでに説明しましたが、ではどんな会社(事業)なら買収する価値があると言えるのでしょうか? 今回はそれをテーマにお話しします。
目次
M&Aで買収する価値があるかどうかを判断するには
「決算書の数字の読み方ならわかるよ」と言う人もいるでしょう。もちろん、会社を分析する上では損益計算書(PL)や貸借対照表(BS)、キャッシュフロー表など「数字面」を分析することも大事です。
一方で、数字に表れない部分を分析することも重要です。例えば、その会社の歴史、業界での存在感、会社の業績のうち代表者に依存している割合はどの程度か、社内の空気はどうか等々、いろいろな要素があります。
つまり、その会社に買収するだけの価値があるかどうかは、
- 数字で分析できるもの
- 数字以外で分析すべきもの
の両面から分析しなくてはいけません。でも、その手の話は専門的な本やセミナー等でいくらでも知ることができます。今回のブログでは取り扱いません。
買収対象企業の分析だけでなく、自社や自分自身の分析も重要
個人で「小さな会社を買う」という際には、それとは別に、もう1つ大事な視点があります。それは「相手の会社の分析」をするだけでなく、「自分自身の分析」も必要だということです。とくに「個人で会社を買う」「サラリーマンが会社を買う」という場合には、企業が企業を買収するという場合よりも、はるかにここの部分が重要になると考えています。
「自分自身の分析とは?」という話ですが、例えば、こんな点があげられます。
- お金の問題:買収資金が用意できればいい?
- 時間の問題:マネジメントスタイルに合うか?
- 能力の問題(回す):経営やマネジメントの能力があるか?
- 能力の問題(伸ばす):得意領域か、自分の関与で伸ばせるか?
他にもいろいろな観点から分析することができますが、今回は上記4点について簡単に説明します。
(1)お金の問題:買収資金が用意できればいい?
会社を買うには、買収資金が必要です。まずはそれが用意できるかどうか。
「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」という本がベストセラーになりました。
でも、300万円用意できれば良いのか、と言われれば、そうとも言い切れません。もし本当に魅力的だと思う案件があったとして、それが300万円以内で買える保証はありませんよね。実際に私が買収した事業は2つありますが、2つとも1000万円前後でした。
自分にぴったりの、本当に素晴らしい案件があったとして、資金調達ができないゆえに買えなかった・・・なんてこともありうるのです。そうした時、自分の手持ち資金だけでなく、どれだけお金を集める能力があるかを把握していれば、いざという時に判断がしやすくなります。
また、その会社に銀行からの借り入れがあるとして、小さな会社の場合、社長が個人保証をしているケースが多いです。「買収するので私が保証を受け継ぎますよ!」と名乗りあげたとしても、銀行があなたの資力を認めないことも考えられます。
受け継ぐことができたとしても、その会社を黒字で回し続けられる保証はありません。赤字になったらどうしましょうか? あなたの資力で新たな銀行借り入れは起こせるでしょうか? あなたの個人財産を会社に貸し付けなければいけない局面があったら、対処できるでしょうか?
「サラリーマンは300万円で小さな会社を買いなさい」では、「会社を手に入れることで、いきなり経営者として、役員報酬1000万超が実現できるかもしれない」との箇所がありますが、もしそうだとして、なぜそんな状態の会社が数百万円で売りに出ているのか、ということを理解しなければいけません。
(2)時間の問題:マネジメントスタイルに合うか?
次の課題は時間の問題です。個人が会社を買う。サラリーマンが会社を買う。その前提として、もし会社を買った場合、その会社の経営にどれだけの時間を割くことができるでしょうか?
「会社を買う」という表現をしていますが、そもそも会社の経営は「ヒト」が関わっている以上、株式や投資信託を買うような「金融商品への投資」とはわけが違います。昔から働く社員さん、パートの方々がいたとして、もしオーナーが変わるとなれば、新オーナーを警戒するのが普通です。
どんな人なんだろう? ちゃんと経営してくれるんだろうか? 私たちの生活はどうなるんだろう? どれだけ親身に考えてくれるんだろう?・・・その他いろいろな思いがあるはずです。
そんな状況の中で「私はサラリーマンなので、基本的には皆さんに任せます。今までどおりに働いてください。私は土日にたまにオフィスに来ます。よろしく!」という感じだとしたら、会社がどうなるだろうか・・・ということに思いを馳せる必要があります。
あなたは買収した会社に対して、どれだけ人生を注げるのか、ということです。サラリーマンをやめて全時間をかけて経営に邁進する!というスタンスなのか。「皆さんに任せますが、週1回は会社に行ってミーティングしましょう。平日はリモートでやりとりを」というスタンスなのか。あなたがどれだけ時間を割く用意があるか、マネジメントスタイルを明確にしておく必要があります。
「やはりサラリーマンには無理なのかな・・・」と思うかもしれませんね。でも事業にはさまざまなものがありますから、サラリーマンをしながら運営できる事業もあると私は思います。実際、私の経験から言えば、サラリーマンをやりながら副業でウェブサービスを運営していた知人は何人もいます。サラリーマンとしての月給を上回る収入になってから、その事業で独立した・・・という人たち。そんな彼らも、もともとはサラリーマンをやりながら事業を回していたわけです。
大事なことは、あなたが会社を買うとして、どういうタイムマネジメントで望みたいかを明確にしておくことです。
(3)能力の問題(回す):経営やマネジメントの能力があるか?
続いては「能力」の問題。「回す」と「伸ばす」の2つに分けて解説します。会社を買うことができたとして、はたして事業を回すことができるかどうか。その事業をきちんと継続させることができるかどうか、ということです。
もしその事業に社員さんがいる場合、社員さんに信頼され、また社員さんたちが引き続き元気に働いてくれるようなマネジメントが求められます。繰り返しになりますが「会社を買う」というのは、金融商品への投資と異なり、ヒトが存在します。
「一事が万事」といいますが、会社の経営は、頭がいいだけでは回りません。大企業の部長だったからといって、小さな会社をきちんと経営できるかどうか。なぜそんなことを言うかというと、成功するサラリーマンに求められる能力と、小さな会社を経営する能力とでは、大きな乖離があるからです。
金額の低い事業の場合、その事業に社員の異動を伴わないケースもあります。でも、円滑に引き継いでもらうためには、きちんと引き継いでもらう必要があります。どれだけきちんと引き継げるか、さらにいえば、プラスアルファのノウハウ面まで引き出せるような人間力があるか。
また実際に社員さんがいる場合は、どれだけ信頼されるか、どれだけやる気を引き出せるか・・・。だってオーナーが変われば不安に思って転職活動を始めるケースだって十分に考えられるわけです。「この新オーナーだったら、しばらくは一緒にがんばってみようかな・・・」と思ってくれる状態にできるかどうか。
「経営やマネジメントの能力があるか」というのは、知識のレベルだけを言っているのではありません。経験や能力、さらには社員や取引先にも安心して頑張り続けてもらうだけの関係性をつくる・・・それだけの「人間力」がどれだけ備わっているか、ということも、非常に重要な要素になってきます。
(4)能力の問題(伸ばす):得意領域か、自分の関与で伸ばせるか?
そして「能力」のもう一つ。「回す」に続いて考えておくべきことは「伸ばす」という能力です。会社を買い、事業を引き継いで運営するためには、その事業を伸ばしていく必要があります。なぜなら、現状維持は衰退を意味するからです。
「会社を買う」以上は、伸ばしていきたいと思うはず。しかも個人、あるいはサラリーマンが会社を買うということであれば、「現状維持でいいや・・・」なんて思いは、おそらく無いと思います。中小企業というのは、うかうかしているとあっという間に赤字転落するもの。競争の激しい世の中にあって、現状維持が許されるような業界はありません。
事業を引き継いたあと、それをいかに伸ばすかというチカラ。あなたが事業に関与することで、どれだけ会社を伸ばしていけるのか。逆にいえば、その会社についてきてくれた社員さんが気にすることの一つは、新オーナーによって、会社がどう変わるのか。衰退していくのか、あるいは現状維持くらいはしてくれるのか。予想外に、前のオーナーの時代よりも成長させることができるような人なのか。
あなたに会社を伸ばすチカラがあるかどうかで、社員さんや取引先の皆さんも、その視線は大いに変わってくるのです。受け継いだ事業にどれだけの可能性があるかを見極める。どうすれば社員のココロに火をつけることができるのかを推し量る。取引先との関係性をよりよくするには何が足りないかを理解する。どんな顧客サービスを用意すればさらなる支持が得られるかを見つける・・・。
1日24時間、ずっとずっと考え続けるくらいに集中できるかどうか。そして「経営は実行」です。どれだけそれを実行し、どれだけ成果として生み出せるのか。まさに経営の醍醐味です。
そもそも何のためにM&Aで会社を買いたいのか
以上、「どんな事業なら買収する価値があるのか?」というテーマで、まとめてみました。とくに「個人で会社を買う」「サラリーマンが会社を買う」という場合には、「相手の会社の分析」をするだけでなく、「自分自身の分析」も重要です。
「買収する価値のある会社」は、数字だけで判断できるものではありません。自己分析が必要になる・・・つまり、「あなたにとって価値ある会社」でなくてはならず、それがどんな会社なのかは、人によって異なってくるということです。
(数字面の分析については、書籍等でもある程度までは勉強ができます)
だからこそ、「私」の棚卸しをすることが不可欠。会社を買うということによって、自分がどう生きていきたいか、スタンスを固めることも大切です。
さらにいえば、なぜ会社を買いたいのか。何のために会社を買いたいと思っているのか。そこを忘れて会社を買収すれば、おそらく痛い目にあう可能性が高いです。「会社を買う」ことがゴールですか? 違いますよね。「会社を買う」という手段を通じて、何かをなしとげたい。それが「あるべき姿」だと私は思うのです。
事業買収の価値がある「いい会社」は本当に見つかるのか?
こうした点をきちんと整理した上で、もし会社を買いたいということであれば、じっくりと時間をかけて会社探しに挑まれることをオススメします。
でも、実際に探し始めるとわかると思いますが、自分にあった良い案件というのはなかなかありません。でも探し続ければ、ある時いきなり出てくることがあります。(私の場合はそうでした)だから、時間をかけてでも、探し続けること。出会いをあきらめないことです。
そして、「会社を買う」というチャンスは今後さらに増えていくはず。だからもし「会社を買う」ということにチャレンジしたいのであれば、大事なことは探し続けること。そして、いつチャンスが来ても応じられれるよう、上記にあげたような能力を磨き続けるということです。
会社の探し方については、「会社を売却したい」という案件の一覧を見ることができるWEB上のプラットフォームも含め、3通りの方法を説明してありますので、こちらもご覧ください。参考になればと願っています。
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【 時の運と人の縁を極める日々の記録 】 渡邉 裕晃
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