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株や不動産の場合、帳簿上の値段(簿価)と、市場価格(時価)があって、例えば簿価の方が時価よりも低い場合、売却すると利益が出るので「含み益」があると言いますよね。逆に、時価の方が低い場合、売却すると損益が発生するので「含み損」があるというわけです。
著者は、これを人材市場にも当てはめて説明します。つまり、Aという社員がいて、会社から受け取っている給料が、市場価格(転職した場合に、平均して転職先の会社から得られそうな給料)を上回っている場合、その会社はAさんに対し必要以上の給料を払っていることになるので「含み損社員」である、と呼ぶわけです。うまいこと言うなぁと感心しました。
「終身雇用」と「年功序列」があった時代では、含み損社員でも生き残ることができた。しかし、これからはますます競争が激化していく。そうなると、会社は一斉に「含み損社員」の大償却を開始することになる。だから、含み損社員にならないための対策をねらなくてはならない、と。それが本書の主題です。
こうしてみると、ごくごくあたりまえのことを言っているわけですが、このあたり意外と盲点になっているのではないでしょうか。実に整然としていて説得的です。なるほどな、と思いました。ここの部分だけを読んでも充分役に立ちます。
そのための10ヵ条を著者は開陳しているのですが、この具体論のところは、まぁ基本的なことかな、という気がします(と言っても、一般に流布する自己啓発本よりは、はるかに良いことが書かれているように思いました)。
「上司に認められさえすれば安泰」という時代でなくなるということは、競争も激化し能力本意に近づいていくわけですから、いろいろ厳しいことも出てくるだろうと思います。ですが、そうであるにもかかわらず、社内だけを自分の世界において働くよりは、社外をも視野に入れて生きていくことの方が、いろいろな意味でよっぽど幸せなのではないか、と感じさせられた一冊です。おそらく口述筆記されたものなのでしょう。講演を聞いているような感じで、軽く読み通せます。