今回取り上げるのは、「丸善」の書店内書店「松丸本舗」の試み。書店の中に、もう一つの特設書店を設けたのです。「書店の中に書店を設ける?」って、不思議に思いますよね。
「丸善」の書店内書店「松丸本舗」とは、どんな実験なのでしょうか? その内容を紹介します。また、この実験を通じて、将来の「リアル書店」のあるべき姿を考えてみたいと思います。
目次
電子書籍の普及で、書店の世界はどう変わるか
iPhone、キンドル、iPad・・・。電子書籍の普及の波は、とどまるところを知りません。かつて「普及しそうで普及しなかった」歴史があり、現在でも、まだまだ普及しているとは言いがたい状況ですが、この流れは、おそらく加速こそすれ、とどまることはないでしょう。
出版社や新聞社については、その役割や、位置づけ、経営基盤の置き方についても、変容を余儀なくされるはずです。(実際、ネットを使った活性化について、出版社さんからご相談をいただくこともあります)
そうした中で、「書店」はどうあるべきか、今後の、いわゆる「リアル書店」のあるべき姿について、大変示唆に富む試みがあります。それが、丸の内「丸善」が展開する書店内書店、「松丸本舗」です。このテーマ、3回に分けてお届けしてみます。
【写真:「松丸本舗」のロゴ】
■「松丸本舗」 |
博覧強記の読書家、松岡正剛の「書店内書店」という挑戦
2009年10月23日にオープンした「松丸本舗」。「編集工学」を主張する著作家である、松岡正剛さんがプロデュースした「書店内書店」です。場所は東京駅前にある丸善(丸の内本店)の4階。
本好きの方には、ぜひ説明抜きで、とにかく黙って足を運んでいただきたい空間。既存の書店には無い仕掛けが、それこそ、オンラインブックストアでは為し得ない空間が・・・。まさに本好きにはたまらない場所だと思います。
実際、私の本好きな知人に聞いてみても、
「ぜひとも行きたい!」
「行ってみたら、やはりすごかった!」
という声が届いています。
遊園地に入っていくかのワクワク感が!!
写真の撮りにくい環境だったので、パンフレットからご紹介しましょう。「写真が撮りにくい」・・・。それというのも、入口からして、すでにその雰囲気に圧倒されるのです。
【写真:縦横無尽に並ぶ書棚と松岡正剛さん】
入口につくなり、「足を踏み入れちゃっても、大丈夫なのだろうか?」という思いと、遊園地に入っていくワクワク感とに襲われます。
通常の書店があまりに「軽く」見えてしまう・・・。それくらいに深みのある「松丸」ワールドが、そこには展開されているのです。
新しい本が無いのに魅力的である秘密
さて、長らく、もったいぶったところで(笑)、いったい、どんな場所かと言いますと・・・、新刊本ばかりが並ぶ既存書店とは異なり、ほとんど古い本ばかり。
独特のテーマごとに本が陳列されていて、文脈と連関をもった書籍群が連なっている。そのつながりは、まさに「絆」とでも言うべきもの。
来場者にテーマが投げかけられており、書棚ごとに松岡さんの手書きメッセージが訴えかけてくる。たとえば、「●●さんが、●●と●●をつなげて読んでいたの、知ってましたか?」とか。
電子書籍時代における、リアル書店の生きる道
要は、水先案内人としての書店主が、「あなたは、これを読むべきですよ」とか、「これに興味あるの? じゃ、これ読んだ?」とか、「この本に詳しいなら、思い切って、これ、読んでみたら?」とか。
そんなメッセージングをしてくれる。どこまでも知の深みにひきずりこんでくれる・・・。そんな本屋なのです。
整然と並ぶだけでなく、たてになったり、横になったり、それも意味をもって。あるいは、松本清張さんの蔵書棚をそのまま再現し、どうして、松本さんがそういう本の陳列をしたのか考えさせたり、なんとその本がそのまま購入できたり・・・。
そして私はここにこそ、電子書籍時代におけるリアル書店の生きる道があると見ています。
【写真:本が生み出す御縁と絆】
オンライン書店と勝負をしても意味がない
検索性に優れ、中古本ですら容易に手に入るオンラインブックストア。アフィリエイトの仕組みにも優れ、著者がプレゼントと共に口コミで仕掛ける、いわゆる「アマゾンキャンペーン」などの影響も相まって、その売上規模は、伸びる一方です。
そんな環境で、リアルな書店が、オンラインブックストアと同じことをしていても無理。「リアルな店舗」という「制約」を抱える以上、その「検索性」や「クチコミアフィリエイト性」において、勝利を収めることは原理的に不可能です。
「手にとって閲覧できる」
「陳列されているので、意外な出会いがある」
などの優位性はあっても、現実としてそれだけでは負けている現状をふまえれば、それだけで勝負するのは心もとないところ。
オンライン書店にできないことは?
では、何をすべきか?「松丸本舗」に行くと、そのヒントがわかります。それは、提供する本や提供の仕方において、強いメッセージ性を打ち出すこと。哲学やメッセージのある書店づくりをするということです。
オンラインブックストアが、いわば「点」で提供するのに対し、求められているのは、「線」で提供してくれる存在・・・。そして、こうした哲学ある書店、「目利き」が、ある強いメッセージ性をもって展開する書店、それらは、実は、昔の個人経営の書店が担っていた役割だったことがわかります。
現在、多くの書店では、新刊本を中心に並べ、売れる本を前面に打ち出し、「どこに行っても同じ」書店群があふれています。そうした書店であれば、行ってもあまり「発見」が得られない。
それに対して、あるテーマや文脈をもって、古い本でも新しい本でも、意味ある組み合わせが提供されていれば、「へぇー、こんなのがあるのか!」「面白い世界があるんだな」となるはずなのです。
そして、何か悩んでいることがあれば、書店主が「これを読んでごらんよ」と薦めてくれる、そんな存在。例えばこちらの書店は有名ですね。
■例:東京都江戸川区の書店「読書のすすめ」(店主:清水克衛さん) ベストセラー本は置かない、読んでいいと思った本しか取り扱わないという書店「読書のすすめ」は東京都江戸川区の篠崎にある熱い篤い本屋です! |
【このテーマ:次回につづく】
2010年2月1日 渡邉 裕晃
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【社長ブログ】時の運と人の縁をきわめる日々の記録
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