『電脳のサムライたち−西和彦とその時代−』レビュー|アスキー創業者の破天荒な人生と日本のパソコン史

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今回ご紹介する本は、アスキー創業者である西和彦さんの人物伝、『電脳のサムライたち―西和彦とその時代』です。

西和彦さんは、アスキーというベンチャー企業の経営者として、また、日本のパーソナルコンピュータの普及の基礎をつくった人物としても有名ですね。

この本の特徴は、西さんの人物伝にとどまらず、西さんの周辺にいた人物が、どのように西さんに協力してきたか、どのような役割を担ってきたのか、といったことにまで言及することによって、日本のパソコン史の黎明期が具体的に描かれているところではないかと思います。熱中して読むことができました。

雑誌「実業の日本」に連載されたものに、加筆、改稿したものです。

近年のアスキーは、業績の低迷やワンマン経営批判に端を発する役員たちの離反など、あまり思わしくない面が目立ちます。週間アスキーも半年足らずで廃刊になりましたし(今は別雑誌として復刊しましたが)、アスキーネットも閉鎖されました。

また、業績悪化の打開策として昨年の暮れにはCSKの傘下に入りましたよね。このとき会見でCSKの大川会長は「西さんは、たしかに経営は下手だけど……」とおっしゃっていましたが、最近の経営手腕に関する限り、あまりいい評判は聞きません。

しかし、将来に対するヴィジョン、これと決めたら一直線に突き進む集中力と行動力、そういった点にかけては、日本のコンピュータビジネス界では、西さんの右に出る人はいないのではないでしょうか。

とてつもないイマジネーションと行動力をもつ天才。しかしそれがゆえに理解されにくく、次から次へとわいてくるアイディアのあまりの数とスケールの大きさに行動が付いていかず、孤独で寂しがりや。欲しいものは何でも欲しがり、やりたいことは何でもやってみたがる、お金持ちのお坊ちゃん。

まさに「欲しいものは欲しいねん、やりたいことはやりたいねん」。そんな人物像が、この本を通じて 伝わってきます。

西さんの若い頃の活躍ぶりを御存知でない方のためにちょっとだけ御紹介。

・20歳で日本初のパソコン月刊誌「I/O」を創刊。
・21歳でアスキーを設立し、月刊誌「ASCII」を創刊。
・22歳でマイクロソフトと業務提携。プログラム言語「BASIC」を日本に供給。(当時、ビル・ゲイツも22歳)
・23歳でマイクロソフト副社長に就任。NECのPC-8001開発に参画。

その他、日立、沖電気、京セラ、NEC、などのパソコン開発にも参加し、MSXの企画立案や、MS−DOS開発の推進、日本で最初にマウスを発売、28歳で半導体事業に進出……、などなど。

その他の活躍については、本を御覧になってみて下さい。

本を読み進めていくうちにわかるのは、西さんとビル・ゲイツが、若いころから大変な緊密ぶりで共に行動していたこと。そして、西さんを支える強力なスタッフがいたということです。

つまり、アスキーの社史、西さんの行動足跡をたどることが、そのまま、日本のパソコン史(特に草創期)をたどることにもなっているんですね。例えばマイクロソフトの日本法人のトップ層も、インプレスの社長も、元はと言えば、アスキーで西さんと行動を共にしていた人々です。新たにパソコンビジネス界で成功されている方々で、アスキー出身の方が、けっこういるようです。このあたり非常に興味深いです。

著者は、西さんのことをこう評価しています。

「西和彦の西和彦たる所以は、一つの閃きが次から次へと連鎖反応を引き起こし、いつの間にか閃きの百花繚乱状態、アイデアのてんこ盛り状態になってしまうところ」

「彼の集中力は持続しない。決して飽きっぽいわけではない。次から次へと新しい夢が生まれ、新たなビジョンが浮かんでくるため、一つのところに集中していられないのである。面白そうなことがあると、あれもこれもと目移りしてしまう子供と同じで、一つのところにじっとしていられないのである」

「次から次へと新たな商売のネタを見つけては子供のように喜び、夢中になる」

こうしたことから、西さんの本質は、企業家や経営者ではなく、「カリスマ的”夢創力”」であり、それをバックアップする適切で強力なスタッフがいさえすれば、絶大な力が発揮されるはず、と言っています。

それにしても、西さんの行動力はすごいですよ。びっくりしました。

例えば学生時代に会社を興して、おばあさんからは数千万円も資金援助を引き出し、大学に行かずにアメリカへ行ってコンピュータ企業を訪問しまくり、当時一日十数万円かけてヘリコプターをチャーターしてまでインテルの駐車場に降り立ち、インテルの幹部が「あの日本の学生は何者だ」と度肝を抜いて、その後、正式に招待状を出した話とか。他にもたくさん。ぜひ読んでみて下さい。

バブル期には自家用戦闘機を三機購入しようとして運輸省から許可が出なかった、とか。2000メートル級の滑走路を備えた一大コンピュータ都市を建造するプロジェクトを本気で進めていた話(用地取得済み!!)も傑作。

あと面白かったのは、マイクロソフト副社長を解任されて悲嘆にくれていたころ、東京タワーが大好きだった彼女の誕生日のために、東京タワーの事務所の人の所へ行って、頭を下げ「夜の12時まで照明をつけてくれ」と懇願。断られても、「コスト計算するとこれだけかかるから、私が負担する。頼みますよぉ」と言い続け、結局事務所の人がおれて、当日、タワー付近のレストランで食事。彼女のために東京タワーを プレゼントした話。感動です。

最後に、西さんの最近の言葉を紹介しましょう。

ビル・ゲイツがアメリカ一の金持ちになった。世界一の金持ちになった。ビル・ゲイツの大きな成功と自分の小さな成功を比べてジリジリと焦っていた時期があった。大きな成功を収めたビル・ゲイツと、リストラで死ぬ思いをしている自分を比較して落ち込んだ時期もあった。でもね、お金がたくさんあることが幸せだという方程式は成り立たないと思う。お金イコール幸せという方程式は成立しない。それを僕はわかった。会社が潰れそうになって、ぎりぎりのところまでいって、そこで生き残って、助けてもらって、そういう経験をしてはじめてお金イコール幸せという方程式が成り立たないことがわかった。
……<中略>……
今の僕はものすごくハッピー。何もしないで机に座っていて、それで一日が過ぎて、夕方になって、そんな一日であってもすごくハッピーだなって思う 。ハッピーだなって思える。僕ね、ビル・ゲイツに会ったときに聞くの、『お前は幸せか』って。あいつは俺に聞くよ、『どうして、お前はそんなにハッピーなんだ』って

<私にとっての西社長>
私にとってアスキーとの出会いは小学校5年生の時でした。そのときは、まだ西さんのことはよく知らなくて、知っていることといえば「アスキーの創業者は、優秀なのに社長ではなく副社長についているらしい」ということぐらいでした。

興味を持ったのは、一昨年、友人にすすめられて西さんの講演を聞きに行ってからです。(西さんの講演は、味があって面白いですよ)

西さんは、近年、経営者から教育者へと次第に比重を移しているのだとか。これからの情報化社会では、経営者と研究者、教育者を、うまく関連させて同時にやっていくことが、(やり方次第では)できるのではないか。そんな感じをもちました。この点が、私にとっては非常に示唆的に感じました。いやぁ、現代にも、こういうジャパニーズ・ドリームや、ドラマチックな人っているんですねぇ。ドラマ化したら、面白そうな気がします。

先日お声をかけさせていただいた際に「聞きたいこととか、何か目的があるのなら、どうぞいらっしゃい」と言われました。社交辞令だとは思いますが(まぁ、あたりまえか)、いつかお話をうかがいに行けたらなぁと思っています。
 
 
■参考:このテーマに関連するブログ記事です。こちらも、どうぞ。

23歳だった私が、米マイクロソフト元副社長から声をかけられた理由
今回の題名は、「23歳だった私が、米マイクロソフト元副社長から声をかけられた理由」というもの。 ずいぶんと大げさな題名に聞こえるかもし...
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パソコン業界で伝説の創業者、アスキー西和彦社長との縁をどう作ったか
23歳でマイクロソフト副社長に就任した日本人。しかも当時のマイクロソフトの売り上げの半分を稼ぎだし、日本に「パーソナルコンピュータ」としての...

■追記:
2018年8月16日付の「ダイヤモンド・オンライン」で、アスキー創業者、西和彦さんのその後がコンパクトにまとまっています。題名は「アスキー社長から研究・教育者へ転身、伏線は「最終学歴は高卒」」というもの。

経営者から学者、教育者へと転身されたわけですが、特に最後の言葉がベンチャースピリットをもつ西和彦さんらしいなと。

「それでもなお、夢をあきらめたわけではない。全ては願い、想うことから始まるのだと考えている」

ビル・ゲイツとMS‐DOS、Windowsを開発、その後、袂を分かって日本に帰国し「アスキー」の社長になった西和彦氏。現在は、東京大学大学院研究者として活躍するとともに、教育にも力を注ぐ。なぜ西氏は、経営者から研究者、教育者に転じたのか。
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