今回ご紹介するのは、『企業家は未来に点を打つ(必ず夢は実現できる)』という本。空気清浄機で急成長を遂げるベンチャー企業、株式会社カンキョーの藤村靖之社長が書かれた書籍です。
目次
『企業家は未来に点を打つ』の内容は?
<簡単な内容紹介> (藤村靖之著、H&I、1997年11月13日発行)
この本は、空気清浄機や高性能浄水器などで急成長するベンチャー企業、株式会社カンキョーの藤村靖之社長が書かれた本です。小松製作所の研究室長であった藤村さんが起業したきっかけ、自社の経営理念、人材育成法、今後のあるべき企業像、起業のヒントなどを、御自身の豊富な経験にもとづいて述べられています。
あたかも社長の五分間スピーチを聞いているような感じで、非常に読みやすいです。成功するベンチャー企業に必要なのは、確固とした理念と柔軟な姿勢、人間を中心に据えた耐えざる研鑽である、ということが、この本全体を通じて強力に伝わってきました。
カンキョーの空気清浄機「クリアベール」の快進撃
大変失礼ながら、私が株式会社カンキョーのことを知ったのは、つい最近のことです。 空気清浄機「クリアベール」は、1991年以来、六年連続で家庭用の国内シェア一位を占めているとのこと。以前、空気清浄機をいろいろ見てまわったことがあるのですが、恥ずかしながら、私はクリアベールのことが 記憶に残っていません。今回この本を読んだのは、藤村社長が、研究者でありながら起業に成功されたという点にひかれたからです。
アメリカでは研究者が会社をおこすということは、さほど珍しいことではないようです。それでも、研究者、とくに技術者が会社をおこすと、「いいものは必ず売れるんだ」という錯覚をおこしがちで、販売に力を入れず、結局失敗することが多いということを聞きますよね。その点、カンキョーは、今でも熱心に研究を続け、しかも会社として成功し続けているという希有な例ではないかと思いました。その秘密はどこにあるのか、これは実に興味深い点ではないでしょうか。
藤村靖之がカンキョーを立ち上げた理由
藤村さんが起業されたのは1984年、39歳の時です。これからは子供の健康と環境をテーマに事業展開する必要があると考え、当時所属していた小松製作所に提言。しかしあえなく拒否されてしまいます。
アメリカには研究者が集まって、ある日突然思いついたように大学を辞めて会社を起こしてしまう人たちがいるではないか。そう思った藤村さんは独立を決意。そこでカンキョーが生まれたわけです。しかし研究は絶対に止めない、と。ここに研究者と経営者の融合が実現します。現在の同社の売り上げは約100億円です。
本田宗一郎が藤村靖之に伝えたアウトシーシングのメリット
この本の特徴は、藤村さんが直接経験されたことが下敷きになっていているので、話がどれもわかりやすく、しかも説得的であるところではないかと思います。カンキョーは徹底したアウトソーシングで知られるそうですが、例えば、こんな話が登場します。本田宗一郎さんと一緒に食事をされた際、藤村さんは本田さんからこう言われたのだそうです。
いまの若い人は、人にものを聞くのを恥ずかしがって何でも自分でやろうとするから、結局その人の一番苦手なことで、その人の成果が決まってしまうんですよ。
<中略> 本当はその人の一番得意なことで成果が定まる方が幸せだと思う。 <中略> 音楽が得意なのに、数学は苦手な人が、数学の能力で世の中に評価されたのではたいへん気の毒だし、もったいないと思います。 |
つまり本田さんは、今で言う「アウトソーシング」の利点を説いていたわけ ですね。藤村さんは、御自分の考えをプラスして、こう述べています。
「自分は自分の得意なことをやって、苦手なことは得意な人から聞けばいい、そして聞くのなら世界一の人から聞けばいい」
これは、なかなかの名言ではないでしょうか。また『韓非子』を引きながら、「部下は三日で上司を知り、上司は部下を知るのに三年かかる」と述べています。そこで経営者は自分自身と戦わなくてはならない。では、どうしたらいいか。重要でありながら盲点になりがちな点についても、具体例をまじえたアドバイスが随所に展開されています。
なお、この「韓非子」の言葉については、こちらも記事もどうぞ。
伸びる会社と衰退する会社の背景
私は実際に経営にたずさわった経験がないので「ふぅん、言われてみればそうかもなぁ」という程度にしか理解できていないのだと(つまり頭でしか理解していない)思うのですが、経営者の方がここを読めば、あいずちを打って「そうそう、そうなんですよね」と口走ってしまいそうな気がします。
昨年一年間で約60のベンチャー企業が倒産したと言われています。倒産件数は過去最高です。「ベンチャーブームは終わったか?」などと言われるほどです。しかし、様々な事情があるにはしても、倒産の主たる原因は、景気が悪いとか、不況だから、などという以前に、もっと本質的な問題があるのではないかという気もします。
中小企業やベンチャー企業の中にも、やはり伸び続けている会社、成功している会社というものも存在するわけです。藤村社長に流れているのは、明確なポリシーと誠実さ、集中力、良い意味でのこだわり、使命感、といったものであろうと思います。そして、常に自分自身や現実を見つめることを欠かさないこと。絶えず柔軟性をもつこと、そういったところに違いが表れてくるのではないかという気がしました。
それに加え、もともと賢い人が不断に努力を続けている、という点は強いですよね。あと強いて挙げれば、藤村社長の場合、小松製作所におられたときにも成功者であった、という事実は意外と見逃すことのできない点ではないかと思います。
「未来に点を打つ」ということ
藤村さんは、変化の多い時代にあって成功するポイントは、本書の題名にあるように「未来に点を打つことだ」と述べています。そしてそこから現在の自分を眺めれば、おのずから自分の役割、使命が見えてくると言います。そうすれば、あとは迷うことなくそこに向かって進めば良いと。
ただ、そういう「点」をうまく打つのは至難の業ではないでしょうか。未来に点を打つ。これは大変示唆的だと思います。ベンチャー企業の倒産が相次いでいるのを見ればわかるように、誰でも簡単に打てるというものではないはずです。先ほどの藤村社長の例で述べたような、努力、資質、姿勢が根本にあって、はじめて成り立つものなのであろうということを強く感じました。