インドネシアのEC産業(eコマース)の将来が注目されています。しかし外資系企業にとって気になるのが、インドネシアの外資規制です。
大いなる注目市場なのに、なかなか自由な参入ができないという現状・・・。そんな中、インドネシアの英字メディア「Jakarta Globe」に、EC業界を驚かせるような報道がありました。
Indonesia to Allow 100% Foreigners Ownership in E-Commerce | Jakarta Globe(06:13 AM January 15, 2016)
と題する記事。大きな成長が見込まれるEC市場に外資参入を許すとの記事です。本当なのでしょうか?今回はこれをテーマにまとめてみます。
目次
外資規制に熱心なインドネシア、EC市場を外資に全面開放?
インドネシアは国内産業の保護育成に熱心で、インドネシア進出を検討する日本企業の中では許認可申請の困難さや、外資の参入が一筋縄ではいかない事情はよく話題になります。
この数年を見ても、インドネシアにおける保護主義的な傾向や、その傾斜ぶりを指摘する声は、よく聞かれていました。
今回の「100%の開放」との報道は、「え? 本当に?」とびっくりするような内容です。
インドネシアで注目のEC市場「外資に100%開放へ」との現地記事
【写真:Jakarta Globeの記事より】
同記事では、こう指摘しています。
インドネシア政府は、外国人に対して、ローカルeコマースビジネスで100%のオーナーシップをもつことを容認する。より高い所得税率を課すことで。通信情報担当国務大臣であるRudiantara氏が木曜日に述べた。
これは、外資企業の参入を厳しくしているネガティブリスト(筆者注:インドネシアにおける外資の参入制限を取り決めたもの)を改定する一環でのこと。 急成長するeコマース分野は外資に閉ざされているが、急成長ゆえに政府を突き動かした。 「要するに、制限は厳しすぎるべきではないということだ」Metronews.com.によれば、大臣はそう語ったとのこと。 海外からの投資は、大規模eコマースビジネスに限定する。しかし規模に関する規程の詳細は明らかではない。 eコマース業者の区別は、「マーケットプレイスのプラットフォームを運営するビジネス」と、「オンラインプラットフォームを活用して商品やサービスを売りたいベンダー」であり、それぞれ異なる税率が適用される。 中小企業については、1%の課税にする。外資つまり大規模ビジネスについては、我々は税率を後で決める。一般的には、インドネシアの企業は売上総利益の25%を税金として支払っている。 インドネシアのeコマース産業は、インターネットとスマートフォンの利用の伸びが影響もあって倍増し、2016年には200億ルピア(14億ドル)になるだろうと、Indonesia’s E-Commerce Association (idEA)は予測している。 インドネシアのeコマースとマーケットプレイスとしては、Mataharimall.com、Lazada、Tokopedia が有名だが、市場のマーケットシェアをめぐって未だに争いを続けている。 しかしながら、アメリカの巨大eコマースのAmazonや、ライバルである中国の巨大eコマースのAlibabaは、まだ存在感を確立していない。 |
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これが事実であれば・・・、そして、実際にその改正が実行されるのであれば、インパクトのある出来事になると思います。
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などなど、注目したくなる会社は多いに違いありません。
「大規模eコマースビジネスに限定する」とはいえ、もともと厳しく制限していたマーケットについて、しかも、eコマースという今後の急成長マーケットについて、いきなり100%開放する!というのは大きなインパクトを与えます。
(余談ながら、上記の記事は、「大規模eコマースビジネスに限定する」という点が本当にサラッとしか書いていないので、見落としてしまいそうです)
「EC市場を外資に全面開放するわけではない」と否定する現地報道も
でも、天邪鬼な私は「え?本当に?」という気持ちがぬぐえませんでした。
「現地のインドネシア語での報道はどうなっている?」と思い、試しにインドネシアの有力メディア「kompas」で関連記事を探してみました。すると、なぜかだいぶトーンは下がります。
「通信情報担当国務大臣:eコマースの全てを外資に開放するわけではない」 Menkominfo: Tidak Semua E-commerce Bisa Diinvestasi Asing – Kompas.com(13 Januari 2016 | 16:44) |
と題する記事。
あれ、題名からして、ものすごいトーンダウンですよ・・・。
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同記事では、こう指摘しています。
インドネシアにおけるeコマース産業の事業者は、政府が議論中である「ネガティブリストの改訂」にともなって、海外の投資家からより大いな資金調達が可能になる。
通信情報担当国務大臣であるRudiantara氏が語るところによれば、このネガティブリストの改訂は、インドネシアにおける全てのeコマース事業者にとって、良い機会になるという。 「eコマースと呼ばれるものは現在、海外投資家には許可されていない。インドネシアは他の分野では海外からの投資を伸ばそうとしているにもかかわらず」 しかしながら、Rudiantara氏が語るところによれば、eコマースや中小企業のすべてを外資に広く開放するわけではない」と話す。 まだしばらくは、外資を制限する現在の条件下で、中小eコマースの様子を見たい。しかし、shift capitalの段階をすでに終えていて、資本調達を何度か終えている企業については、我々は規制緩和を検討する。 外資に対してOKを出すかどうかのキャピタル価値の制限(外資が最大何パーセントまで株をもてるかということか?)をどの程度にするかは、まだ議論中だ。 なお、eコマース以外にも、16〜17の分野で外資に対する緩和を検討中である。ジョコウィ大統領は、2周間以内にネガティブリストの改正作業を終えるようにと、1/12に指示をした |
同じニュースの内容なのに、2つのメディアでどうしてこれほどのトーンダウンがあるのか・・・。
どうしても気になって、もう一度、Jakarta Globeの記事を読み返してみると、同記事の元記事になっているのは、次の記事のようでした。
「インドネシア政府は外資のeコマースの参入を許可へ」と題する記事です。
Ekonomi | Pemerintah Perbolehkan Asing Masuk di E-Commerce
(Jakarta Globeの記事が、「直接取材+この記事」を元に書かれたのか、あるいは「この記事」だけを元に書かれたのかはわかりません)
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同メディアは英語版を用意していて、
Govt Allows Foreign Investors in E-Commerce Industry |
という英文翻訳済みの記事があります。
念のため対照して読み比べてみると、
なぜか同じメディアの同じ記事であるにもかかわらず、一部訳し漏れ(簡略化?)があり、
ほんの少しだけニュアンスに微妙なズレを感じました。
(以下で「★印」付きで明示します)
Jakarta Globeの記事は、metronewsを引用しながら書かれているのですが、
もしこのインドネシア語版ではなくて、英語版を元にしていたのだとしたら、
たしかに「100%開放!」という印象の記事になってしまうのも無理はないと感じました。
記事内容は次のとおりです。
インドネシア政府は、eコマースに関するロードマップに既に合意した。これはインドネシアの経済発展と雇用環境の改善に関わるものだ。
★(インドネシア語記事では「インドネシアの経済発展のために」ですが、英文記事では「eコマース業界の発展のために」となっている。小さな違いかもしれませんが、含意するところのニュアンスは、保護か開放かの度合い等、大きく異なってきます) 政府が決断したのは、外資企業がEC業界に参入するのを許可すること。それはマーケットプレイスや、中小企業以外の分野、つまり大規模eコマースの分野に限定してだ。 ★(英文記事では「大規模な海外eコマース事業者が、ローカルの中小企業に脅威を与えない分野で進出することを許可する決断をした」と記述=これは、ほぼ同じか) 大きなマーケットプレイスの進出を許可することの目的は、経済発展と雇用環境の改善、海外投資を通じて。当然これは、競争力の強化にとって重要なことだ。(インドネシアの競争力を重視する姿勢か) ★(英文記事では「海外からの直接投資を促進し、競争力を改善するため」とあり、若干「?」な感じあり) 「eコマースについては31の提案がある。投資の観点から言えば、eコマースについてのネガティブリストを緩和すること。現在はダメでも将来はOKになる。しかし中小企業は別だ。なぜなら保護されなければいけないからだ。マーケットプレイスのような大規模業者だ、我々が期待するのは。 中小企業についてのeコマースの課税については1%とする。外資が手を出して良いジャンルである大規模eコマースについては、政府は税金の規程を検討中である。 ★(訳し漏れあり「外資が手を出して良いジャンルである大手企業」と強調する部分) ★(その次は、1段落まるまる訳し漏れ) 今年からこのロードマップが適用されるならば、将来、巨大なポテンシャルを創造するだろう。経済活動と外資導入に対して。もしこのロードマップが今年からきちんと導入されるのであれば、2020年には少なくとも1300億ドルの市場になるだろう。 |
と。
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これらの情報から結論からすれば、次のことがわかります。
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しかしながら、同じ内容の記事でありながら、
「インドネシアが、eコマースで外資100%の参入を許可へ」というのと、
「eコマースの全てを外資に開放するわけではない」とでは、
受け取り手のイメージはだいぶ違ってきますよね・・・。
他にも補足できる点がいくつかあるのですが、長くなるので取り急ぎ以上です。
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私自身、日本では1999年からインターネットマーケティングの会社を経営し、
数々のECサイトの集客支援をしてきました。
また、自らの会社でも、2つのECサイトを直接運営してきたことから、
ECビジネスの将来には、非常に強い思い入れがあります。
今まで、インドネシアのEC環境を見てきた者としては、
インドネシアにおける外資の参入障壁の大きさを常々感じ、
なんとかして早期の開放がなされないものかと願ってきた人間です。
一足飛びの開放が難しいことは承知ですが、
ちょっと厳しすぎるんですよね。
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大規模事業に限定しての進出が加速されるだけでも、
一定の意味はあるのかもしれません。
でも、やはり日本のECといえば、中小企業の活躍がめざましく、
ぜひそうした企業のインドネシア進出が加速されることを願う私としては、
もうちょっと進んだ開放を強く期待したいところです。
1/26までにはネガティブリストの改訂が終了するようなので、
まずは、その内容を吟味してみたいと思います。
将来のインドネシアにとって、よりよい改訂が行われるよう期待しています。
【参考】インドネシアEC市場(eコマース)と外資規制に関するブログ記事
インドネシアEC市場(eコマース)と外資規制をテーマとするブログ記事です。こちらも、ぜひどうぞ。
(参考:samsul.comブログから) ■2016年1月19日up インドネシア政府「eコマース・ロードマップ」を1月下旬には発表か ■2016年1月20日up ■2016年1月24日up ■2016年2月12日up ■2016年2月13日up |
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【 時の運と人の縁を極める日々の記録 】 渡邉 裕晃
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