御存知のように、最近ベンチャー企業の倒産やフランチャイズ加盟店の業績不振などが言われます。ベンチャーというと、非常に元気で、危機的状況にも敢然と立ち向かうというイメージがあるのですが、実際にはそうでもない場合も多いようです。
今回は「ベンチャー企業の成功と失敗を分ける大事なポイント」と題して、その分岐点にあるものを考えてみたいと思います。
目次
成功と失敗の分岐点を考える
私も最近、彼らの成功と失敗の分岐点はどこにあるのだろうかと考えることがあります。そんなとき、私の予備校でのアルバイトの経験を思い出しました。
いわゆる「受験勉強の勝者」たちは、大学合格に向けてどのような戦略立案をしていたのか、うまく成績の伸びが見られない人はどのような問題を抱えているのか、そこにちょっとしたヒントが隠されているような気がするのです。
私にはサラリーマン経験も経営者経験もありませんが、自分なりに考えてみることにしました。
「受験勉強の勝者」たちは、どう戦略立案をしていたか
何年か前、ある予備校で「クラスリーダー」という仕事をやらせていただいたことがあります。ちょうど三年間。担当クラスは高校二年生でした。授業と授業の合間の休み時間に、連絡事項の伝達をしたり、プリントを配布したりする仕事です。現役大学生として、大学内部の話や、効果的な受験勉強法を話したりもします。受験の経験談を伝えて、よりよい勉強ができるように応援してあげるというのが主な仕事でした。
そうすると、この仕事にはいわゆる「受験勉強の勝者」ばかりが採用されることになります。私の場合は「中堅大学の学生として、他のクラスリーダーにはできないことをさせたい」ということで採用になったとかで、ちょっと複雑な気持ちにさせられましたが、「うぅん、僕の大学の学部だって、六大学と肩を並べるぐらいの偏差値でランク付けされているんだぞ」などと、ぶつぶつ言いながら、仕事をしていたものです。一緒にクラスリーダーをやっていた仲間たちは、みんな東大、慶応大、早稲田大の生徒でした。
学歴と能力とは必ずしも比例しないとは思いますが、中にはやはり、理路整然と文章や意見をまとめることに長けている人もいれば(この方は、官僚になりました)、頭の回転の速さを感じさせる人もいました。
そういう環境にいたものですから、アルバイト中に暇なときがあると、「受験勉強の勝者たちは、どんな勉強をしてきたのだろうか? 彼らの勉強法はどこが違うのだろうか?」と、東大生たちに囲まれながら考えざるを得なくなるわけです。自分のとってきた勉強法を思い出して、彼らの勉強法と比較してみたり、彼らの会話などを聞いているうちにわかってきたことは、「自主性と計画性」にポイントがあるのではないか、ということでした。
自主性をもつ:「している」と「しているつもり」は大違い!!
受験勉強をうまくやられてきた方は、あまり気づかれないかもしれませんがクラスの生徒たちを見ていて思ったのは、「予備校の授業に出席している」「授業に出てノートを写している」というだけで、あたかも自分が勉強しているかのような錯覚をしている場合があるということです。
「ただ書き写しているだけで、それでおしまい」というのでは、ほとんど意味がないということになかなか気づかないわけです。これは本当にあたりまえのことなのですが、自主性の欠如が結構大きな要因になっているのではないかと思いました。「勉強しているつもり」という、この「つもり」を発見できないと成績はなかなか伸びていかないだろうと思います。
計画性をもつ
それから、私の身近にいた東大生たちに共通していたのは、計画的に勉強に取り組んでいたという点でした。
自分自身で毎月、毎週、毎日の大まかな計画を立て、実際にそれを行い、そして適宜成果をふりかえる。うまく進んでいなければ、計画の一部変更を行い、どこがいけなかったのかを考える。その繰り返しで進むわけです。
「会社の経営」と「受験勉強のマネジメント」の共通性
なぜ私がこのような話をしたかと言いますと、それはベンチャー企業やフランチャイズ加盟店の失敗、とりわけ本当に安易な気持ちや甘えた気持ちで始められた方々の失敗というものは、多かれ少なかれ、どこか同種の問題を抱えているのではないかと思ったからです。
例えば「自主性の欠如」を経営に置き換えると、社長のいすにいるだけで、経営している「つもり」になっている、とか、会社の実態をよく知らないでいながら、自分は黒字経営をしている「つもり」になっているという場合も考えられます。面倒なことは、社員がやってくれるはず。困ったら、誰かが助けてくれるはず。危なくなったら、フランチャイズ本部がどうにかしてくれるはず。フランチャイズのマニュアル通りにやりさえすれば儲かるはず。誰かが「このやり方で行けば儲かりますよ」と言っていたから、儲かるはず……。そんな事例もあるでしょう。
次に「計画性」。ベンチャー企業にしても、フランチャイズ加盟店にしても創業したての会社の場合、勝手がわからず計画が立てにくいということもあるでしょう。ただ、いわゆる受験の勝者がやっていたのは、全員が全員そうだったというわけではありませんが、今後自分がすべきことは何なのか、ある程度の予想をつけ、それに向かって計画を立てるということでした。自分自身で毎月、毎週、毎日の大まかな計画を立て、実際にそれを行い、そして適宜成果をふりかえる。うまく進んでいなければ、計画の一部変更を行い、どこがいけなかったのかを考える。その繰り返しで進むわけです。それは経営にしても同じではないかと思います。
もちろん、経営の失敗要因は、これだけではないでしょう。経営環境の変化とか、思わぬ事故が発生したりという場合もあるはずです。ですが、この二点をわきまえるのとそうでないのとでは、けっこう違ってくるのではないでしょうか。
言われたままではなく、必ず自分で考える
成功している経営者は、こうしたら儲かる、ああしたら儲かるなどと人から言われても、やはり自分で本当に考え抜くということを欠かすことは無いと思います。成功するフランチャイズ加盟店にしても、そうだと思います。インチキやダマシのフランチャイズもあるかもしれません。たとえ本部に「ここなら立地条件は抜群ですよ」と言われても、それを鵜呑みにせず、自分で身銭を切って複数の調査機関に調査を依頼する。それをもとに、自分自身で比較検討をしてからフランチャイズを選択する、というぐらいのことをしないかぎり成功は難しいのではないでしょうか。
フランチャイズ経営を始めてからも、与えられたマニュアルを忠実に実行するだけでなく、自分で工夫をし、いろいろな戦略をひねり出して試行錯誤してみる。そういうことを、本気になって必死になってやって、そこではじめて成功を獲得する可能性が生まれてくるのではないでしょうか。当然、計画を立てて実行し適宜ふりかえるということも必ずしているはずです。
ある宗教団体の急成長と衰退から考える
適切な例と言えるかどうかわかりませんが、数年前、私はある新興宗教団体の急成長の秘密が知りたくて、しばらく自分なりに調査をしたことがあります。
私が見たところでは、簡単に言えば、教祖が中心になって自分の力で精一杯、一歩一歩地道に進んできことや、ビジネスとして宗教をとらえ、非常に綿密な企画と計画が立案できたことなどが、組織の急成長を支えた大きな要因だったように思いました。
急成長を遂げた後、この団体はある事件を契機に急速に停滞していくのですが、そこには他教団から引き抜いた役員の暴走や、イエスマンの増加に伴う教祖の自主性の低下と慢心化が背景にあったと思います。また、教祖の立案していた計画が、実はその時期以降まではほとんど描かれていなかったということも大きな原因だったように思います。
自主性と計画性を発揮し続けるために:「つもり」の発見
自主性と計画性というのは、言うのは簡単ですが、いざ実行するとなるとなかなか大変なものです。
ただ、自分が毎日携わっていることに対し、「本気でやっているのか? それとも、ただ <つもり> になっているだけではないのか?」と振り返ることは、簡単です。ことあるごとに、自分にそう言い聞かせること。
それから、絶えず計画、実行、反省、修正、のリズムの維持を心がけること。これだけでも、状況は大きく変わってくるのではないでしょうか。私は、自分への戒めも込めて、そう思うのです。