日本語教師になるために推奨されている研修プログラム。それが「日本語教師養成講座420時間コース」で、私は2013年6月に修了しました。そしてその後、同年の9月にインドネシアに移住しました。
インドネシアは、日本語学習者の数が多いことで知られています。国際交流基金が3年ごとに調査をしている統計値によると、インドネシアの日本語学習者の数は、中国に続いて世界で第2位。
世界の日本語学習者の中で、インドネシアの日本語学習者が占める割合は、なんと21.9%です。とりわけ「10代、20代の若者世代」に限定すると、中国を抜いて世界一になるのではないかとすら言われています。
急増する日本語学習者という環境においては、どんな課題があるのでしょうか。今回は「インドネシアにおける日本語教育の課題」を取り上げてみます。
目次
急増する日本語学習者、新たな教育課題は?
インドネシアにおける日本語学習者の数は、2009年度の調査で716,353人だったものが、2012年度の調査では872,411人へと、21.8%増となっています。
また、海外における日本語学習者の数を見ると、1979年度の調査で 127,167人だったものが、2012年度の調査で 3,985,669人へと、31.3 倍にもなっています。
この「急増する学習者」という現象は、一方で、日本語教師の不足や、教育の質の確保という点で、いろいろな課題をもたらしつつあるのが現状のようです。
約1年、インドネシアで実際に暮らす中で感じてきたことをふまえつつ、そのあたりのことを、今回のブログでまとめてみたいと思います。
親日の国、インドネシア
なお、インドネシアで日本語学習者が急速に増えている背景や、若者に日本好きが多いことなどについては、いろいろな要因があります。
その一端については、以前「週刊アスキー」で、インタビュー形式で語ったものがありますので、ご関心のある方は、ぜひこちらをご覧ください。
【画像:週刊アスキーのインタビュー記事ページ】
日本に興味を持ってくれる人が増えているというのは本当に嬉しいこと。日本の言語や文化が、より多くの人に共有され、また、より多くの日本人との交流が生まれるわけで、ここから生まれる将来の新たな可能性は計り知れません。
インドネシアの日本語教育の課題は「数」だけでない
さて、前述のとおり、「急増する学習者」という現象は、日本語教師の不足や、教育の質の確保という点で、いろいろな課題をもたらしつつあるようです。
まず日本語教師の不足について。単純に考えれば、「数の不足」には、手っ取り早く「数の補充」でまかなえそうにも思えます。しかし、当然のことながら、単に数の埋め合わせをすればよいわけではありません。というのは、日本語ができるからといって、適切な日本語教育ができるわけではないからです。
日本語ができれば「日本語教育ができる」というわけではない
これは私自身、日本語教員の資格を取得するべく、「日本語教師養成講座420時間コース」を履修したことで、初めて痛感したことでした。
「日本語ができるからといって、適した日本語教育ができるわけではない」ということ。
例えば、英語ができるからといって、うまく教えることが出来る人もいれば、そうでない人もいますよね。それと同じこと。それは私が実際に、日本語教授法を習い、模擬授業を行ってきた体験から痛感したことです。
効果的に日本語を教えるということは本当に難しい・・。
それを身をもって経験したのです。
質の強化には「日本語教育の経験」も大事
日本語教育そのものの内容に明るいだけでなく、その手法についても通じていなければ、効果的な日本語教育というものは、なかなか難しいもの。
たしかに「日本語教師養成講座420時間コース」を履修すれば、それを学習し、理論と実技の両面から訓練することが可能です。
しかし、「日本語教師養成講座420時間コース」を終えたからといって、充分な教育能力が備わるかと言えば、実際に経験した身としては、はなはだ疑問。やはり実地での長い訓練が不可欠です。
「質を伴った補充」、つまり「教育の質」という観点からすると、短期的に解決するのは、なかなか難しいということになります。
【後日の追記】
「経験を積む場を用意する」という観点から、2018年よりインドネシアのスラバヤで「日本語教師ボランティアプログラム」を立ち上げました。詳細はこちらをどうぞ。
インドネシアの日本語教育で課題となる人件費コスト
仮に、日本語教育能力の高い「日本人の日本語教師」を増やせたとします。
でも、インドネシアの教育機関からすれば、いざ「日本人の日本語教師」を確保しようにも、そこで大きく問題となる点があります。
それが「コスト」です。
日本語教育能力が高いか低いかは関係なく、そもそも「日本人の日本語教師」を確保するのに問題となる点。なんといっても、現地の人に比べて大幅に高い人件費コスト。そして駐在に付帯する様々なコスト・・・。
実際にインドネシアで活躍する「日本人の日本語教師」の実態を見ると、
(私が見てきた限りですが・・・)
とても低い給与で頑張っていらっしゃる方もれば、中には、ほぼボランティアベースで教えているという方も。
日本人のネイティブ教師をどう確保するか
さらに言えば、「インドネシアに駐在する」という条件。
これをクリアしてくれる人材を確保するのも、これまた一定の困難があります。
もちろん、どんな日本人でも良いというわけではなく、「日本語を教育する」という、教育能力も大事になってきますよね。
さらに加えて、インドネシア側での受け入れ環境の問題もあります。例えば、円滑なビザ発給ができるかどうか、受け入れ側がどの程度までサポートをしてくれるか・・等の問題です。
インドネシアの日本語教育、現地の先生たちの教育の質は?
一方で、「インドネシア人の日本語教師」ならば、ある程度は人件費を抑えられるわけですが・・、
「インドネシア人教師」の実態について見てみると、日本に行ったことが無いという教員も普通にいて、日本語レベルがそれほど高くない教員もいるのが実情です。
もちろん大変流暢にお話しされる方もいます。
でも、ある大学の日本語学科では、レベルの高いクラスに属するインドネシア人学生よりも、日本語能力が劣るような教員がいたりする。そんな現状もあると、実際に現場で複数の人から聞きました。
日本語教育の環境整備は重要な課題に
インドネシアで急増する日本語学習者。日本語教員の「数」と「質」の課題は、一朝一夕では片付けられないテーマになっています。
しかし、日本のことが好きだという若者は多く、日本に憧れ「日本に行きたい!」と願う人もたくさんいます。この1年間、インドネシアで暮らす中、多くの日本語学習者に触れ合ってきました。学生の中には、本当に優秀な人も多く、私自身、あまりに高い日本語能力を前にして、驚かされたことは数知れません。
そうした環境であればこそ、できるだけ良質な日本語教育環境を整備することは、今後のインドネシアと日本の関係強化にも重要なこと。
次回のブログでは、「インドネシア日本語教育学会」の試みと、国際交流基金「日本語パートナーズ」の試みをご紹介したいと思います。
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【 時の運と人の縁を極める日々の記録 】 渡邉 裕晃
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