インドネシア「eコマース・ロードマップ」問題の見方|通信情報大臣と商業大臣のコメントから

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今月下旬に発表されると見られる、インドネシア政府の「eコマース・ロードマップ」。ECの発展に関するロードマップ(行程表)ですね。

急成長するeコマース市場にあって、インドネシアがそれをどのように発展させていくのか。政府はどのような役割を担い、どのような政策を進め、外資企業にはどのようなメリット、あるいは制限が課せられるのか。

いま、関係者の中で注目を集めている分野です。今回、1月18日付での商業大臣トーマス・レンボン氏のコメント、そして、1月19日付での通信情報大臣ルディアンタラ氏のコメントが報道されました。ある程度の指針が見えてきたようなので、私見をまじえ、「続報」として改めてまとめてみます。




インドネシア「eコマース・ロードマップ」問題の進展は?

インドネシア政府は「eコマース」の進展に大きな関心を寄せてきました。政府として「eコマース」の発展にどう寄り添うか、どう支援していくかという観点から、ECの発展に関する「ロードマップ(行程表)」をどう策定するかが話題となっています。

どのような内容にあるのか、まだ憶測を出ない記事が多く、それらについては、過去のブログでもまとめてきました。

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通信情報大臣ルディアンタラ氏のコメントから分析する

Kompasによる1月19日付での通信情報大臣コメント報道【画像:Kompasによる1月19日付での通信情報大臣コメント報道】

時系列では逆になりますが、テーマを理解しやすくするために、
まずは19日付の、ルディアンタラ(Rudiantara)通信情報大臣コメントを見ていきます。

これについては「kompas」が、

通信情報大臣コメント「すべてのeコマースが海外投資家100%(の状態)を許されるわけではない」Menkominfo: Tak Semua “E-commerce” Boleh 100 Persen Pemodal Asing – Kompas.com(19 Januari 2016 | 14:24)

と題する記事でまとめています。

詳細は次のとおりです。

インドネシア政府による「ネガティブリスト」(外資の参入制限を定めたリスト)の改訂にともなって、インドネシアのeコマース企業は海外資本の注入を受け入れることを許可されるようになる見込みだ。しかし、そこには「すべての企業が100%の資本を受け入れることが許可されるというわけではない」という但し書きが付く。

通信情報大臣のルディアンタラ(Rudiantara)氏によれば、ネガティブリストの改訂についての問題はすでに商業大臣の Thomas Lembong氏、および投資調整庁長官のFranky Sibarani氏と共に議論した。

その議論で合意したのは、eコマース企業が海外資本の投資を受け入れるための許可申請にあたっては、一定のカテゴリー分類を用意するということだ。

「eコマースのロードマップは、ネガティブリスト問題の一つだ。我々はすでに3者で協議をしたが、公式には後日、経済調整大臣との内閣非公開会議に送られる」と、通信情報大臣のRudiantara氏は、同省にある自らのオフィスでkompas誌の取材に対して語った。

「方向性としては、零細企業が保護されなくれはいけない。海外企業がインドネシアに入ってきてはいけないということの理由は、現行の中小企業法においても明らかにそう書いてあるからだ。しかし、大企業および、非常に規模の大きな大企業については、例えばその価値がすでに「兆」の規模に達するような大企業であれならば、我々は100%で用意をする(訳注:100%が何を意味するかは曖昧な表現)。したがってカテゴリー分類があるということだ」と付け加えた。

同大臣が語るところによれば、ネガティブリストの規則はインドネシアの国際競争力を強化し、かつ、ビジネスのプロセスをより効果的にするだけの存在であるべきだと説明している。

投資の簡素化(ビジネスのプロセスをより効果的にする)によって政府が期待できるのは、大規模eコマースが別の海外の国に逃げていかないことだろう。それによってまた、それらの企業はインドネシアに税金を払い続けてくれるのだ。

「大規模eコマース企業は、海外で structured company になれる。loanや、convertible loanなどのかたちをとって。もしそうなれば、インドネシアの損失だ。なぜならインドネシアに対して税金を払ってくれないことになるからだ」と締めくくった。
ネガティブリストは、ロードマップ、つまりインドネシアにおけるeコマースの工程表の全体の中の一つにすぎない。今日に至るまで、政府はすでに設計されたロードマップの形態をいまだ表明していない。

しかしそのロードマップの目的は明瞭だ。つまり、2020年に1300億ドル、1兆8180億ルピアと見積もられているインドネシアのeコマース産業を発展させるということだ。

政府がすでに表明しているのは、eコマースのロードマップは今月下旬に国家プログラムとして制定されるだろうということだ。

     □     □     □

ここで要点として注目したいのは、以下の4点。

(1)無条件で100%の外資受け入れをするというわけではない。
(2)インドネシアの中小企業は保護すべき存在。外資が入ってきてはいけない。
(3)優先すべきはインドネシアの成長強化につながること。
(4)大規模企業に限定して、一定の条件で参入を許可するが、その条件は未定であり、主な目的は税収の強化にあるということ。

あくまでもインドネシアの国内産業の強化がポイントであり、
外資の参入を許す理由は、国内産業との切磋琢磨にあるのではなく、
あくまでも国家の税収増にあるというスタンスです。

ネガティブリストが緩和されるということ。
「外資の参入基準が緩和されるらしい」という話があるからといって、
なんでもかんでもウェルカムというわけではないという姿勢が透けて見えてきます。
(国内向けメッセージなのでしょうが、意外と露骨です)

商業大臣トーマス・レンボン氏のコメントから分析する

続いて、1月18日付でのトーマス・レンボン(Thomas Lembong)商業大臣のコメントを見ていきましょう。

これについては通信社であるアンタラ通信の記事があり、
同国主要メディア「TEMPO」が、

Lembong商業大臣コメント「eコマース産業には実験が必要だ」(Menteri Lembong: Perlu Eksperimen di Industri E-commerce | Tempo Bisnis

との表題で掲載しています。

Tempoによる1月18日付での商業大臣コメント報道【画像:Tempoによる1月18日付での商業大臣コメント報道】

詳細は次のとおりです。

商業大臣のトーマス・レンボン(Thomas Lembong)氏が語るところによれば、eコマース産業あるいはオンラインにもとづく産業に従事する事業者たちは、重すぎる制限にならない範囲での実験が必要だと語った。

「我々は、重すぎる制限を直接導入することについて、慎重になるべきだ。大企業は当然、一定の制限や長ったらしい許可をクリアしながら歩むべきで、それは彼らが「規模の経済」というスケールメリットや、大きな資本、実行部隊としてのスタッフなどを有しているからだ。中小企業には難しいことだろう。もし我々がデジタルエコノミーを若者世代の状況に合わせていくとするならば、重い制限を押し付けるのはやめるべきだ」と、トーマス大臣は月曜日のジャカルタでの記者会合で語った。

トーマス大臣が語るところによれば、eコマース産業においては、さまざまに実験を行うだけの余裕・余力がなければ、イノベーションは起こらない。しかし、さまざまな実験の中で行われるすべてのことが、すぐに成功するとは限らない。失敗することも多いはずだ。

「私はアメリカから学びたい。1990年台の半ばという時代は巨大産業としてのインターネットが初めて誕生した時だ。当時のアメリカには2つの側面があった。つまりlight touch(軽接触)とsafe harbor(安全域)だ」とトーマス大臣は語る。

「light touch」というコンセプトは、つまり、デジタル産業のために、政府によって実験するための場所・余裕が与えられたことだ。

それらの実験で失敗が起きた場合、損失をこうむる当事者たちが発生する。しかしそれらの当事者は、悪意や騙す意図がない限り、訴訟や事件の対象になるような失敗とは見なされない。これこそが、safe harborという概念が意味するところだ。

「実験にはたくさんの失敗が伴うだろう。そして失敗した時には当然、損失を被る当事者が発生する。しかし、たたぢにそれを事件や訴訟の対象とするべきではない。それがsafe harborの大きな意味であり、これこそが「保護」である。そこに悪意が無いのであれば」とトーマス大臣は語る。

トーマス大臣が付け加えて語るところによれば、政府が干渉すべきことは、今後においても制限のようなかたちのものは軽微であるべきだ。しかし、だからといってeコマース産業に従事する事業者たちが、すでに施行されているいろいろな制限(まだeコマースだけに限定した専門の規則はないが)からまったくの自由であるかといえば、そういうことを意味するものではない。

「誤解してはいけない。デジタル産業、サイバー産業に属する事業者たちが、すでにある制限から自由であるということを意味するものではない。すべてのeコマース事業者たちは、ひきつづき現行の規則に対してきちんと従わなくてはいけない。それで十分だ」とトーマス大臣は語る。

トーマス大臣が言うのは、eコマース産業の事業者は規則に従わなくてはいけないということだ。例えば、医薬・食品監督庁(BPOM)の決定や、税関規則、インドネシア国家規格(Standar Nasional Indonesia, SNI)の規則、また、その他様々な規則だ。

政府は、経済調整省を通じて、すでにeコマース・ロードマップの制定化を行い、1月下旬に発表予定の国家プログラムにすることを決定している。

eコマースのロードマップは、ジョコ・ウィドド大統領からのフォローアップ手段であり、インドネシアのeコマース産業が成長促進できるように、インドネシアに有益なかたちで適用できるかたちでの内容となる。

     □     □     □

ここで要点として注目したいのは、次の4点です。

(1)eコマースやデジタル産業の発展にはイノベーションが重要である。
(2)イノベーションには試行錯誤(実験)が不可欠であり、政府としてはイノベーションを促進するための支援をする用意がある。
(3)失敗しても悪意がなければ保護される動きを作りたい。しかし法律を守らなくてはいけないということではない。
(4)eコマース事業者は、さまざまな規則や法律を順守しなくてはいけない。

イノベーションの重要性を認識しつつ、失敗が保護される土壌を提供したいと。

重い法規制は避けなくてはいけないいけない。
でも、法から自由というわけではなく、遵法精神が重要であると。

(ちなみに、規則は最低限であるべきで、失敗を寛容な施策を進め、イノベーションを重視するというあたり。私見ですが、幼少期をドイツで過ごし、英語も非常に堪能な、そんなトーマス大臣ならでは・・・という感じもします)

2人の大臣のコメントを総合して「eコマース・ロードマップ」問題を分析する

長くなりましたが、以上で1月18日付でのトーマス・レンボン商業大臣コメント、そして1月19日付でのルディアンタラ通信情報大臣コメントについての報道をまとめました。

この2人の大臣のコメントから透けて見えるものは何か。

私の推測をまじえれば、おそらく次のような点に集約されるのではないかと思います。

(1)ネガティブリストの緩和はするが、国内産業を脅かすような策はとらない。
(2)一定の緩和は行うが、守るべきものはきちんと守ってもらう。
(3)中小企業は保護されるべき存在であり、海外資本の参入は食い止めたい。
(4)大企業には規制はつきものだ。
(5)ネガティブリストの緩和や、ロードマップの策定は行うが、実際の様子を見ながら、適宜、柔軟に内容を調整したい。

例えば(2)の点からすれば、「規制そのものは緩和するが、既存の規制に関する取り締まりについては強化する」とも聞こえます。

例えば(4)の点からすれば、今回、海外資本を広くOKすると見込まれるのは大企業のみ。

つまり、「海外から参入してくる企業=大企業には、相応の規制(例えば高い税率など)をかけて当然である」とも聞こえます。

具体策は見えないが、eコマース・ロードマップの方針は見えてきた

今回、ネガティブリストでどのような緩和が行われるのか、
また、今後の成長政策であるeコマース・ロードマップがどのような内容になるのか。

具体的な策は、まだ発表がありません。
(噂のレベルでは出てきていますが、前回ブログで紹介したものなど)

ただ、今回のブログでまとめたことや、
前回までのブログでまとめたことなどを総合すると、
インドネシア政府のスタンスは見えてくるのではないでしょうか。

つまりは、あくまでもインドネシアの国内産業の保護(強化)がポイントであり、
外資の参入を許す理由は、国内産業との切磋琢磨にあるというよりは、
あくまでも国家の税収増にあるというスタンス。

したがって、外資の参入に閉鎖的だったインドネシアが、急に政策転換して、外資オールウェルカムになる! というわけではないということです。

     □     □     □

ただし、繰り返しになりますが、
正式発表はまだ行われていないため、詳しい論評ができない段階です。

でも、今までのインドネシア政府のスタンスや、
今回のネガティブリスト改訂やロードマップに関する大臣のコメントなどを見ていくと、
「政策転換」というほどのインパクトは望めない状況ではないかと考えます。

以上、インドネシアの「eコマース・ロードマップ」問題について、
最近の通信情報大臣と商業大臣のコメントから見えてくるものをまとめてみました。

正式発表がどうなるか、引き続き注視していきたいと思います。

サムスル
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時の運と人の縁を極める日々の記録 】  渡邉 裕晃
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