インドネシア大統領選挙2019|選挙結果と大規模デモ・ジャカルタ暴動と今後の課題を解説【ラジオ音声あり】

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2019年4月17日に行われたインドネシアの大統領選挙。ジャカルタの選挙管理委員会によって約1ヶ月に渡る集計作業が行われ、その結果は5月21日深夜に発表されました。

先日の4月23日深夜に、TOKYO-FM系列のラジオ番組、JFN「ON THE PLANET」で「インドネシアの大統領選挙」について解説させていただく機会がありました。浪曲師・玉川太福さんからの質問にお答えするかたちの15分間。インドネシア入門者でもわかりやすいように心がけて説明をしました。

その後、選挙結果が公式に発表されたということで、5月28日に再び「ON THE PLANET」に出演する機会をいただきました。今回は、選挙結果の発表を受けてインドネシアがどのような状況になっているのか、ジャカルタ暴動やジョコウィ再選後のインドネシアの課題も含めて解説しています。

「超入門者」向けの内容となっていますが、「音声データ」は近々ウェブで公開される予定です。ここでは当日お話しした内容に大幅な加筆をして、インドネシアの大統領選挙のその後をまとめてみました。

▼音声はコチラから!(「JFN PARK」アプリでお聴きいただけます)




目次

インドネシアの2019年大統領選挙をラジオで解説!!

TOKYO-FM系列のラジオ番組、JFN「ON THE PLANET」

4月23日深夜の「ON THE PLANET」では、インドネシアの大統領選挙について、誰でもわかるように噛み砕いて解説をさせていただきました。

「ON THE PLANET」という番組について、また前回お話しした内容についてはこちらをご覧ください。

インドネシア大統領選挙2019|候補者や開票状況、今後の影響を解説!(入門者向け)【ラジオ音声あり】
「世界最大の大統領選挙」と言われるインドネシア大統領選挙を解説します。立候補者や開票速報の結果、スタッフの過労死問題など、インドネシア大統領選挙の基礎をまとめました。TOKYO-FM系ラジオ番組「ON THE PLANET」で語った内容に加筆したものです。

具体的には、下記のような内容で解説させていただきました。

インドネシア大統領選挙 解説ブログ

2019年大統領選挙、公式発表の「その後」がテーマ!!

今回テーマとなったのは、インドネシアの大統領選挙の「その後」です。

対談相手である玉川太福さんは、このようにスタートされました。

本日の「Today’s Planet」。今夜は、インドネシアに繋ぎます。前回は、インドネシアで4月に行われた大統領選挙、その開票の混乱について、インドネシア在住の渡邉裕晃(わたなべ・ひろあき)さんにお話をうかがいました。

そして、5月21日に、ようやく公式な開票結果が出たところ、死者まで出てしまうという抗議デモも起こってしまいました。今、インドネシアはどんなことになっているのでしょうか?

というわけで、インドネシアの大統領選挙の「その後」について、15分ミニ解説のスタートです。大きく分けて、全部で10の質問をいただきました。順番にご紹介します。

質問(1) 現職のジョコウィがプラボウォを破って当選、現地の人々の反応は?

大統領選挙の結果は、現職のジョコ・ウィドド氏がプラボウォ・スビアント氏を破って、当選、ということになったんですね。これについて、一般の方々は、どんな風な反響だったのでしょうか?

今回、5月21日の深夜に「集計の結果」が発表されたわけですが、このような結果になりました。

【2019年のインドネシア大統領選挙の結果】
・ジョコウィ:8503万票(55.41%)
・プラボウォ:6844万票(44.59%)

私が現地で周辺を見た限りでは、また、現地のメディアで確認した限りでは、一般の方々の反響はごくごく普通・・・といった感じでした。ごくごく普通で、いつもと変わり映えしない状況ですね。

開票速報によって、ある程度の予想がついていた

というのは、今回の選挙は4月17日に実施されたものですが、その日の夜の時点で、すでにいくつかの調査機関が開票速報(クイックカウント)を出しているんですね。メインとなる調査機関は、どこもだいたい同じ数字を出していて、実際5/21に発表された正式な集計結果と比べても、ほぼ同じ数字でした。なお以下の画像は、投票を締め切って数時間後の開票速報です。

インドネシア大統領選挙 開票速報 クイックカウント

選挙管理委員会の公式集計も、途中経過が公開されていた

また今回の結果発表についても、集計の途中経過は15分ごとにオンライン上で公開されている仕組みがありました。また現地のニュースでも、毎日のように途中経過の数字が報道されていました。

なので、今回の発表は、突然結果が出てきたというよりは、すでに予想された数字の通りだったわけで、一般の方々の反響はごくごく普通・・・というのは、まぁ予想された結果だったという背景があるのだと思います。

質問(2) 選挙結果への抗議デモやジャカルタ暴動が起きた理由は?

そして、その後、この結果に抗議する活動が起きてしまったということですが、なぜ、抗議デモが起こってしまったのでしょうか?

はい。抗議デモは「選挙の不正を訴える」という内容で始まったのですが、実は、投票日だった4/17の夜に、プラボウォはもう勝利宣言を出しているんですね。

投票が締め切られた当日、プラボウォは勝利宣言

当時プラボウォはツイッターでも投稿をしていまして「我々に不利となる選挙不正がたくさん起きているが、それにも関わらず、我々の方が高い数字が出ている」と書いています。また、支持者の前でも当選のお礼を述べるという状況でして、それによれば「我々は、62%も票が取れた」と語っているんです。

選挙に不正があったとの主張が繰り返されて

この「不正だ!」というプラボウォの主張は、日増しにエスカレートしていきます。開票速報を出していた各種調査機関のことも「嘘つき」呼ばわりするようになります。支持者たちを前にして「調査機関の嘘つき野郎は、南極に行っちまえ」みたいなことも言い始めます。

その後も、プラボウォ陣営の主張を見ると「選挙には多くの不正があった」というトーンを崩していません。「大規模で、構造的で、システマチックな不正があった」ということで「民主主義の規範から逸脱した行為だ」とも主張するようになっています。

不正を訴えるプラボウォ陣営、警察や軍の反応は?

「不正だ!」「抗議する!」と、次第に主張がエスカレートしていくわけですが、インドネシアも法治国家です。かつてのスハルト独裁政治を超えてから約20年という月日が経過し、民主主義も次第に定着しつつあります。

これについて警察は、次のようなコメントを出しました。

■インドネシア警察庁長官からのコメント

選挙の不正があるというなら証拠を出して報告して下さい。不正を訴えるなら、証拠をそろえて報告をしなければいけません。報告があれば、きちんと対応します。捜査すべき案件があれば捜査します。逮捕すべき人がいれば逮捕します。きちんとした法律によるメカニズムがあるんです。証拠がないのに不正だなんて言うことはできません。だから、不正だと騒ぐ人は、早く警察に報告をして下さい。

また軍も、同じようなスタンスのコメントを発表します。

■インドネシア軍司令官からのコメント

選挙結果に不満をもつ勢力が挑発をしたり意見を述べたりする現状を確認しています。不正を訴える声もあります。噂やでっちあげをソーシャルメディアで拡散させる動きも依然として増えています。こうした傾向が続けば、選挙機関や選挙管理委員会に対するデモや襲撃を引き起こすことも考えられます。我々は早期警戒と早期予防に努めています。選挙期間と同様の警戒態勢を続けます。

こうした動きもあってか、プラボウォ陣営も法的手続きにのっとった動きを見せ始めるようになります。

質問(3) 選挙結果は不正で不当!憲法裁判所へ訴えることに?

プラボウォ選挙結果を不当として、憲法裁判所に訴えると述べた・・・

はい。選挙結果は不当だということでデモが始まるようになりますが、まず5月10日の時点で、プラボウォ陣営は選挙監視庁に対して、不正を調査するように要望を出しました。

選挙監視庁に対する不正調査の申し立て内容は?

プラボウォ陣営の主張は「選挙は不正だ!」と騒ぐばかりで、具体的な内容や証拠などが言及されることはあまりありませんでした。そのため、選挙監視庁に対する主張内容や、それに添付される証拠類などに大きな注目が集まりました。

5つの選挙不正が主張されましたが、報道によると内容は次のとおりです。

(1)選挙管理委員会が、ジョコウィ陣営に有益となるような選挙が実施されるようオピニオンを誘導した。

(2)ジョコウィ陣営の勝利のために国家機関が関与した。

(3)ジョコウィ陣営の勝利を目的とした選挙結果のとりまとめに関する不正があった。

(4)海外での投票実施について、ジョコウィ陣営の勝利を目的とした構造的、システマチック、大規模な不正があった。

(5)ジョコウィ陣営の勝利を目的に、メディアを不正に活用した。

選挙監視庁に不正調査の申し立て、却下された理由は?

ところが5/20に「主張を裏付けるための証拠が不十分」という理由で却下されました。証拠として提出されていたものが「報道記事のリンク」だけだったようなのです。

選挙に不正や不服がある場合、インドネシアでは憲法裁判所に訴えることができます。しかしプラボウォ陣営は、「もう政府も法律も信用ならない!」・・・ということなのかわかりませんが、憲法裁判所に訴えるのではなく、大衆動員による抗議活動を選択肢にしようとするわけです。

最終的にプラボウォ陣営は法律にのっとって、平和的に抗議を行うべきだと語るのですが、5/22のジャカルタ騒動になってしまいました。

憲法裁判所へ不服の申し立て、結果は6/28に

その後、5/24になると、憲法裁判所への訴えを起こしています。この異議申し立ては、6/28までに結論が出る予定です。

ただジョコウィとプラボウォの間には1650万票という大きな差があります。これを覆すだけの証拠固めと説得を行うのは、相当難しいのではないかと言われています。なお今回も、証拠として提出しているのはほとんどが「報道記事のリンク」だと言われています。

質問(4) 選挙結果への抗議デモ、具体的にはどんな内容?

具体的に、どんな抗議活動となってしまったのか、教えてください。最初は少なかったんですよね?

プラボウォは一貫して「選挙に勝ったのは私だ」と主張しています。選挙の結果は不正が多いから認められないと。そのため支持者に対しても、抗議するように呼びかけていたんですね。そこから小規模なデモとして始まっていきました。

今回のジャカルタ騒動が起きた日も、昼は通常のデモで、平和的に行われていたようです。また報道によれば、夕方過ぎになってもデモ隊と警察との間で円満な話し合いが行われたりもしていたようなんです。

少なくとも8人の死者と730人の負傷者が

直近の数字が手元に無いのですが、ジャカルタ州政府の発表では、デモ隊と治安部隊との衝突で、23日までに8人の死者と730人の負傷者が出たとしているようです。

当初は平和的に行われていたようですが、インドネシアでは夜間のデモが原則禁止なんですね。そこで警察は夜になってからデモ隊に解散するように呼びかけたものの、一部がこれに応じず、投石や放火を行うなどの暴徒化したようです。

そこで警察が催涙弾を使うなどして強制排除に乗り出したというのがいきさつだとされています。

お金で雇われたデモ隊もいる? 資金源は?

一部報道では、この抗議デモに参加したのは約6000人で暴力行為に及んだのは300人前後とされています。

もちろんプラボウォ支持者たちが多いわけですが、お金で雇われた人たちも多かったようで大量の逮捕者も出ています。1人あたり30万ルピア(2500円くらい)とも言われていて、資金の出どころも含め、現在調査が行われているようです。

質問(5) 抗議デモから始まったジャカルタ暴動、起きた場所は?

ひどくなったのは、ジャカルタだけ?他の地域は?

今回のようなひどい事態を招いたのは、ジャカルタがメインです。ジャカルタ以外では、スマトラ島やカリマンタン島、マドゥラ島などでも警察署の襲撃などが報道されましたが大きな事態にはなっていません。

ジャカルタでも、ジャカルタ全土で怒りが広がった・・・というわけではなく、ジャカルタ中心部にある選挙監視庁の周辺や、タナアバン、スリピなど合計3ヶ所のエリアにとどまったようです。


【写真:左の建物が選挙監視庁】

ちなみに選挙監視庁の周辺には日本大使館があり、警戒のために道路が封鎖されていましたが、距離にして2kmくらいです。ジャカルタ全土に広がった・・・という感じではありません。なお選挙監視庁から日本大使館までを地図で示すと以下の通りです。

質問(6) 抗議デモやジャカルタ暴動が終わり、現在の街の様子は?

今、町の様子はどんな感じになっていますか?

私が住んでいるのが東ジャワのマランというところなので、ジャカルタからは離れているんですね。そのため現場を見ることはできていませんが、道路の封鎖は27日昼で解除されたようです。その前の26日も、道路封鎖は行われていたものの、人々が自由に歩いていて、まるで歩行者天国のような雰囲気があったようです。

日本がジャカルタに建設した地下鉄MRTも、平常運転を行っているようです。

ただ警察発表によれば、政府の主要な施設ですね、選挙管理委員会、選挙監視庁、憲法裁判所、国会といった施設については、引き続き警戒を続ける方針のようです。友人が投稿した写真などを見ても、町は落ち着きを取り戻したようです。

一方で、警察は引き続きこの問題を捜査しています。暴動のあった22日だけでも257人を拘束したようで、その後も逮捕者の取り調べ等が報道されています。中には政府要人や開票速報機関の代表者の暗殺容疑でも複数の逮捕者が出て、話題になっています。

質問(7) ソーシャルメディアを利用したフェイクニュースの拡散も影響している?

フェイクニュース インドネシア大統領選挙

この暴動は、ソーシャルメディアを利用して拡散されたフェイクニュースが関係しているとも言われいますが、それは実際に感じましたか?

感じました。私自身は、できるだけそうした胡散臭い情報には近づかないようにしているんですが、それでも3月、4月と大統領選挙の投票日が迫るにつれて、ソーシャルメディア等で怪しげな投稿が増えているなーと実感していました。

情報の根拠や出どころが曖昧な情報も増えた

またフェイクニュースとは少し違うのですが、今回のジャカルタ暴動でも、「こんな話を耳にしたんだけど」とか「知り合いが言っていたんだけど」みたいな投稿が増えていたのは、私自身の感覚としてももっています。つまり「情報の出どころが曖昧」だということです。

現地メディアを見てみても、ニセ情報やフェイクニュースに気をつけようという呼びかけが行われていました。また、何か不思議なニュースが広がっている時、メディアではよく「このニュースはフェイクですよ。実際は、こうなっているんですよ」といった解説をよく見かけました。

フェイクニュースやデマの拡散をどう克服するか

この問題を管轄しているのは、インドネシアの省庁の1つである通信情報省なんですが、その公式発表によれば、特にこの4月はフェイクニュースの流通量が非常に多かったそうです。

今回の暴動でも、暴徒がコミュニケーションツールの「ワッツアップ」、日本でいう「ライン」にあたるものですが、それを使いながら連携をとって動いていたなんて報道がされています。ここ数日も、フェイクニュースの拡散などの容疑で逮捕者が続いています。

質問(8) インドネシア政府がSNSの利用を制限、どんな内容?

これに対して、インドネシア政府が、SNSの利用の制限をした、ということですがどんなことになっているのでしょうか?

ジャカルタ暴動が起きたのは5/21夜から5/22早朝にかけてですが、その5/22の昼すぎくらいから制限されるようになりました。メッセンジャーアプリやソーシャルメディアへのアクセスが難しくなって、私自身もfacebookが全く使えなくなりました。ただこの規制は、すでに5/25の午後2時ごろに解除されています。

インドネシアの情報通信省は、制限解除の時にツイッターでお知らせを出しています。

これがその告知ツイートになりますが、いかにもインドネシアらしいという感じでしょうか・・・「サイバー空間は前向きなことに活用しましょう。良い週末を!」なんて呼びかけていて、なんというかインドネシアらしいなぁという感じもしました。

具体的に、何が使えないかというと、先ほど紹介した「ワッツアップ」だけでなく、facebookやインスタグラムなども制限がかかりました。アクセス制限の状況は、居住地域や接続環境により異なっていたようです。

政府の説明によれば、ニセ映像やニセ写真の拡散が非常に多く発生していて、フェイクニュースの拡散を防ぐ措置としてアクセスを制限することになったようです。

具体的には写真や映像の投稿が難しくなったり、ソーシャルメディア系のアプリやサイトが表示されなかったりという現象がおきました。

質問(9) インターネット接続の規制、こうした措置は初めて?

ソーシャルメディア

こうした措置は初めて?

私の知る限りでは、おそらく初めてではないかと思います。一方で、「こうした規制は国民の知る権利や表現の自由に抵触するのでは」という危惧の声も出ています。例えばインドネシアにある「独立ジャーナリスト連盟」は、懸念を表明して、早期の規制解除を求めるという動きに出ました。

インドネシアはソーシャルメディア大国

ただインドネシアは、ソーシャルメディアやメッセンジャーアプリを活発に使う人が非常に多いことでも知られています。

ある調査では、1日あたりの利用時間は3時間以上で、日本の平均の3倍以上とも言われています。そのため規制がかかっている最中は、「いつになったら解除されるんだ?」という声もあちこちで聞かれました。

ただインドネシア通信情報省の5/27の記者会見によると、フェイクニュースやテロ対策など、日常でもパトロールをかなりやっているようです。対策としては、まず第一段階では、問題がある特定のリンクを非表示にして、第二段階では、アプリ等の事業者と提携してアカウントを閉鎖にして・・・ということを続けているようです。

歯止めの効かないインドネシアのソーシャルメディア事情

ただし今回はあまりにも状況がひどいことと、メッセンジャーアプリで連絡をとりながら犯行に及んでいることが確認できたことなどもあって、最終手段としてアクセス制限にふみきったというのが背景にあるようです。

ちなみに5/22の暴動の前の1週間だけでも61,000ものWhatsAppアカウントを閉鎖しているようです。また今回の3日間のアクセス制限期間だけでも、facebook、twitter、インスタグラム、ユーチューブ、その他ウェブサイトなど、合計で2,184のアカウントを閉鎖しているようです。

つまり、それでも歯止めが効かないから規制に踏み切ったということになります。安易な判断でアクセス規制を決断したというわけではなさそうです。

質問(10) 大統領に選出されたジョコウィ、今後に期待される政策は?

大統領となった、ジョコ氏、今後、どんな政策が期待されているのですか?

現在、プラボウォ陣営が憲法裁判所で不服申し立てを行っているので、まだジョコウィが大統領になると確定したわけではありません。

裁判所決定は6/28が予定されているので、もしそこで確定すれば、ジョコウィ大統領の継続が決まります。今年の10月に2期目の大統領に就任すると、また新たに5年間の任期をつとめることになります。

今後のジョコウィ大統領に期待される点ですが、いまの状況を見る限りでは、次の4つの点になるかなと思います。

ジョコウィ政権の期待(1) プラボウォ陣営との関係性の回復

まずはプラボウォ陣営との関係性の回復です。憲法裁判所に出された訴状によれば、プラボウォ陣営はあくまでも「プラボウォ大統領の誕生」を決定するように求めています。また選挙の不正問題をきっかけに、先日のような暴動が起き、死傷者や大量の逮捕者まで出しました。非常に鋭い対立が起きています。

ジョコウィは投票日以来、プラボウォとの面会を求めていますが、いまだに実現していません。

今回の大統領選挙ではジョコウィが勝利をし、プラボウォは敗北をしているわけですが、それでも投票結果を見れば、プラボウォは、負けたとは言え、44.59%、実に6844万票もの票を得ています。一定の影響力は確実にあるわけで、関係性の回復が一つの課題となると思います。

ジョコウィ政権の期待(2) インドネシア全土に広がる分断をどうするか

2つ目は、インドネシア全土に広がる分断をどう回復するかということです。前回選挙に比べて、インドネシアでは分断が深まったのではないかと言われています。

今回の大統領選挙の特徴は、両陣営の中で、政策論争らしき政策論争がほとんど無かったということです。何度かテレビ討論会も行われましたが、それを見ていても、政策について意見を戦わせることはほとんどありませんでした。

一方で、選挙結果をじっくり見てみると、5年前の前回選挙と比べて「分断」が起きていることがわかります。どういうことかというと、イスラムが穏健な州ではジョコウィ支持が強まり、イスラム色の強い州ではプラボウォ支持が広がっています。政策論争よりも、イスラムの保守か、イスラムの穏健か、という「分断」が鋭くなったと見ることもできます。

「票の数」という点ではジョコウィは前回選挙よりも数を伸ばしています。

【2014年選挙】
・ジョコウィ:7099万(53.15)23州で勝利
・プラボウォ:6257万(46.85)10州で勝利
両陣営の差:842万票(6.3%)

【2019年選挙】
・ジョコウィ:8503万票(55.41%)21州で勝利
・プラボウォ:6844万票(44.59%)13州で勝利
両陣営の差:1659万票(10.82%)

「票数の差」についても、前回選挙に比べて2倍近くに拡大しました。これをもってジョコウィは盤石だと見ることもできますが、一方でイスラム保守の伸長という側面にも注目すべきです。つまり「政策によって選ぶ」という選挙戦ではなかったということです。

実際に今回の選挙戦でのフェイクニュースでも、宗教や民族をネタにしたニセ情報も散らばりました。政策よりもアイデンティティで選ぶという傾向があるとしたら、こうした分断をどう解消するかというのも一つの課題となります。

ジョコウィ政権の期待(3) 経済成長を加速するには

3つ目は、インドネシアの経済成長をいかに加速させるかということです。ジョコウィ政権は年間7%の経済成長率を目標にしてきましたが、現在は5%が続いています。5%でも世界的に見れば高い数字で、街を見ていてもインドネシアが日増しに変化していることは明らかに実感できます。

しかし、今後も経済成長を続けていくためには、目標とする7%にいかに近づけていけるが課題となります。インドネシアは若者が多いため、毎年新規に労働者が500万人生まれていると言われています。この労働力を吸収するには年間5%の成長が必要とされています。

この5年間はインフラ整備に重点が置かれましたが、今後は生産性や競争力をあげるなど、人材投資も必要です。一方でインフラ整備を続ける必要性もあります。

さらなる成長のためには外資の導入や外資解放も必要ですが、一方で国内を重視すべきという保守派の動きも台頭しています。経済成長のための舵取りをどうするかということも、また大きな課題となっています。

ジョコウィ政権の期待(4) 2024年選挙までの闘争ゲームをどうコントロールするか

最後の4つ目は、5年後の大統領選挙に向けて、つまり2024年選挙までの闘争ゲームをどうコントロールするかということです。インドネシアの大統領は、2期10年までしかつとめることができません。そのため、ジョコウィは次の大統領選挙に立候補することができません。

いまニュースを見ると、ジョコウィとプラボウォの権力闘争が起きているように見えますが、よーく見てみると、インドネシアに存在する様々な勢力グループは、次なる2024年選挙を見据えた動きを見せ始めています。

権力闘争の駆け引きがすでに始まっているわけで、ジョコウィが新たな政策を推進するにも、彼らとどのような関係性をもつべきかというコントロールをも大事になってきます。

実は前回の大統領であったユドヨノは、2期目でそれに苦しみ「何も決められない大統領」なんて言われたりもしました。まさにここが2期目を迎えるジョコウィの次なる課題と言えそうです。

もっともっとインドネシアのことを知ってほしい!

ジャカルタのビル街

というわけで、ラジオ番組、JFN「ON THE PLANET」で約15分間、インドネシアの大統領選挙についてのお話をさせていただきました。今回のブログでは、当日のラジオでお話しさせていただいた内容に、大幅な補足を加えてまとめ直してみました。

実は、話したい内容はすでにまとめてあったのですが、用意したことの半分も話せないままで時間切れに・・・。

対話させていただいた浪曲師の玉川太福さんも、最後で「あっという間に時間になってしまいましたが・・・」とコメントされていましたが、これだけ複雑なインドネシア政治を15分に詰め込むというのは本当に難しいものです。

しかし「プロは何事も時間におさめる!」と考えているので、残り時間をチェックしながら過不足なくまとまるよう、アタマをフル回転させながらお話しをさせていただきました。

一見するとわかりづらく、また日本の皆さんにとっては馴染みの薄い「インドネシア政治」ですが、超入門者向けにわかりやすく噛み砕いて説明をさせていただく機会をいただけたことは、とても嬉しいことです。私自身、インドネシアと日本のハーフとして、2つの国をつなぐための活動をどんどん展開していけたらと願っています。

関心のある方は、ぜひ音声でもチェックをしていただければ幸いです。

▼音声はコチラから!(「JFN PARK」アプリでお聴きいただけます)

なお今回のラジオ番組では、共著で書いた「インドネシアのことがマンガで3時間でわかる本」や、本ブログの紹介もしていただけました。本当にありがたいことです。

【参考】インドネシア大統領選挙2014、関連ブログ記事

なお、前回2014年に開催されたインドネシア大統領選挙に関するブログ記事は以下の通りです。こちらもどうぞ。

インドネシアの大統領選挙|2014年選挙の予測について
2014年のインドネシア大統領選挙を占う記事があったので、ご紹介します。 現在、広範囲の支持を受けるユドヨノ大統領ですが、「2期10年...
インドネシア大統領選挙2014|「ジョコウィの候補者指名に感謝!」との横断幕
インドネシアでは、今年、5年に1度の大統領選挙が行われます。昨日(3月14日)、インドネシアの最大野党である闘争民主党が、次期大統領選挙の候...
インドネシア大統領選挙2014|テレビ討論会で立候補者が与えた印象
インドネシアでは2014年7月9日の次期大統領選挙に向けて、選挙キャンペーンが活発化しています。テレビでは、繰り返しニュースやコマーシャルが...
インドネシア大統領選挙2014| 現地タクシー運転手6人インタビュー!
白熱するインドネシアの大統領選挙。テレビを付ければ、選挙キャンペーンに関する番組が流れ、大統領候補のテレビコマーシャルが頻繁に流れてきます。...
インドネシア大統領選挙2014|選挙管理委員会の結果発表をジャカルタで迎えてみる
7月19日からジャカルタ入りしています。今後のインドネシアの運命を大きくわける、その節目となる大事な日を、首都ジャカルタで迎えたいからです。...
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