インドネシアでもインフルエンサーの存在感が上がってきています。「インフルエンサー」は、SNS等を活用して消費者の意思決定に影響を及ぼす存在。企業の宣伝活動にとっても、インフルエンサーの存在は無視できなくなりつつあります。
そんな中、いまインドネシアで話題になっているのが大学入試で「インフルエンサー枠」を設ける大学が現れたこと。実施を決めたのは、東ジャワにある私立ムハマディア大学マラン校(Universitas Muhammadiyah Malang)です。
この「インフルエンサー入試」とは、どのような内容なのでしょうか? また、こうした試みを支えるのはソーシャルメディア利用が活発なインドネシアならではの事情がありそうです。それも含めて解説します。
目次
インドネシアの大学が導入したインフルエンサー入試とは?
今回インドネシアで「インフルエンサー入試」を設けて話題のムハマディア大学マラン校ですが、同校は1964年に開校した大学で、東ジャワのマランにあります。地元マランでは、略称「UMM」の名前で呼ばれています。海外からの留学生もおり、わずかながら日本人も在籍しています。
「インフルエンサー入試」について同校のウェブサイトを見ると、応募のための最低条件が記されていました。
それによれば、YouTubeなら5000フォロワー、インスタグラムやツイッターなら1万フォローをもつ人でなければ、応募ができないようになっています。これ以外の詳細については記されていませんが、現地の主要メディア「コンパス」(Kompas)が、今回の話題を記事で取り上げています。
Viral Penerimaan Mahasiswa Baru Jalur Influencer, Ini Penjelasan UMM (21/03/2020, 19:20 WIB)
大学担当者へのヒアリングが行われていますが、大学からの回答としては「ビューティー、フード、トラベル、ライターなど、発信しているコンテンツの種類は問わない」とのこと。ただしフォロワーの数だけで選考することはなく、「ポジティブ、クリエイティブ、エデュケイティブ」という3要素で総合的に判断するとしています。
対象となるのは、医学部と健康学部を除く全学部。4/25まで受け付けています。さて、どんな結果になるでしょうか?
ソーシャルメディア利用が活発なインドネシアの事情
日本で「インフルエンサー入試」と聞けば想像もできないかもしれません。もちろん「インドネシアでも話題になっている」ということは、インドネシアでも「えーっ」という驚きがあるということです。
しかし実際に「インフルエンサー入試」を導入する大学があるということは、インフルエンサーというものの存在がインドネシアでは相応に認められていると見ることもできそうです。その背景には、世界的にもソーシャルメディア利用が活発な国であることも影響しています。
インドネシアのネット利用の状況は?
例えば2020年1月30日公開のDATAREPORTALの調査によれば、次のような数字が並びます。
・ソーシャルメディアユーザー数:1億6000万(2019年4月から2020年1月にかけて1200万人の増加)
・1日にネットに使う時間:世界で8位:7時間59分
・1日にモバイルに使う時間:世界で5位:4時間46分
・ソーシャルメディアに使う時間:世界で5位:3時間26分
・ソーシャルメディアを仕事に使っているという人の割合:世界で1位
・ネットユーザーのうち「毎月モバイルで使う」と回答したのは「チャット」も「ソーシャルメディア」も96%に。
インドネシアのソーシャルメディア、世界のランキングは?
また「ソーシャルメディアユーザー数世界ランキング」を見るとインドネシアの位置づけは次の通りです。
・facebook:インドネシア人の数は世界で3位、1億3000万人(世界では24億5000万人)
・インスタグラム:インドネシア人の数は世界で4位、6300万人(世界では10億人)
・ツイッター:インドネシア人の数は世界で8位、1億645万人
なお、facebookの場合「インドネシア語」は世界5位ですが、地方語である「ジャワ語」が世界19位にランクインしているのはびっくりしました。
インフルエンサーが育ちやすく、受け入れられやすいインドネシアのデジタル環境
世界的に見てもソーシャルメディア利用が活発なのがインドネシア。ソーシャルメディアだけでなく、WhatsAppやLineといったメッセンジャーの利用も旺盛です。
実際、インドネシアのジョコウィ大統領もネット利用の促進派。大統領選挙のキャンペーンで活用されただけでなく、日々の方針説明でもネットがフル活用されています。
ゴジェック創業者ナディム・マカリムを教育文化大臣に任命
Nadiem Makarim dan Erick Thohir 'siap' menjadi menteri Kabinet Jokowi, apa reaksi pasar? https://t.co/8xeNriXURh pic.twitter.com/NcSpBB5xHy
— BBC News Indonesia (@BBCIndonesia) October 21, 2019
昨年の第2次ジョコウィ政権の発足のあたっては、教育文化大臣にまだ30代という若さのナディム・マカリム(Nadiem Makarim)を起用しました。
配車アプリ「ゴジェック」の創業者で、まさにデジタルベンチャーの第一人者。大臣への起用にあたっても「デジタル活用に期待する」との大統領からの表明がありました。
インフルエンサーのプトリ・タンジュンを大統領補佐官に任命
また2019年11月には、インフルエンサーとしても知られる20代の女性起業家のプトリ・タンジュン(Putri Indahsari Tanjung)が、大統領補佐官に就任しています。「起業の実態を教えてほしい」とのジョコウィ大統領からの要請によるものです。
ブカラパック共同創業者ファジリン・ラシドを国営企業の取締役に任命
また2020年6月には、ネット通販大手「ブカラパック」共同創業者のムハンマド・ファジリン・ラシド氏(Muhamad Fajrin Rasyid)を、通信系の国営企業「テレコムニカシ・インドネシア」(テルコム)の取締役(デジタル事業担当)に就任させています。
ブカラパックはユニコーン企業の一つで、同氏はまだ33歳という若さです。
このように、インドネシアはネット利用が非常に先進的な国だと言えるでしょう。インドネシアは若者が多く、「若さゆえのパワー」は、今後のインドネシアの成長源にもなるはずです。こちらの記事も、ぜひどうぞ。
インドネシアの大学の「インフルエンサー入試」導入はどのような結果に?
しかしながら、インドネシアにそうした土壌があるにせよ、大学入試で「インフルエンサー入試」が行われるということ。しかも、ソーシャルメディアの内容が審査されるだけで、テストらしいものは行わないというのですから、だいぶ思い切った手法ではないでしょうか。一つの大きな実験とも言えるでしょう。
今回の「インフルエンサー入試」はどのような結果になるのでしょうか。結果次第では、他の学校でも採用の検討をするところが出てくるかもしれません。入試結果がわかり次第、また追いかけてみたいと思います。
このテーマに関するブログ記事
東ジャワにある私立ムハマディア大学マラン校について取り上げた記事はこちら。
そもそも東ジャワのマランは、どんな場所?と気になった方はこちら。
また、ジョコウィ大統領によるデジタル立国の夢やソーシャルメディア活用の試みとしては、例えばこちらをどうぞ。