インドネシアのコロナ感染者数は過去最悪を更新しています。
1月8日と9日の「新規感染者数」を見ると、2日連続で「1日あたり1万人」の大台を超えました。なかなか数字がおさまらない状況には、インドネシア政府も苦慮している様子で、年末年始には「入国制限」や「国内の行動制限」も打ち出しました。
アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究チームの集計によれば、1月13日(水)17:21現在で、インドネシアの状況は以下のように報告されています。
・感染者数:84万6,765人
・死亡者数:2万4,645人
日本のメディア記事を見ると「インドネシアのコロナ感染者数は深刻で東南アジアで最大」と書かれていることがありますが、そもそも人口が約2億7000万と周辺国に比べて圧倒的に多いからという事情もあります。
1月12日からは「ワクチン接種」もスタートしました。インドネシアのコロナの状況についての近況をまとめてみます。
目次
- 1 陰謀論も!コロナに関するインドネシア庶民の混乱
- 2 インドネシアの運転手に聞く「インドネシアのコロナ」のナマの声
- 3 インドネシアのコロナ感染状況(ジョンズ・ホプキンス大学の集計)
- 4 新型コロナの悪化が引き起こすインドネシアの「墓地不足」問題
- 5 インドネシア政府が打ち出したコロナ規制
- 6 インドネシアの各自治体レベルでの独自のコロナ規制も
- 7 矢継ぎ早のコロナ規制に現地インドネシアの人々の間には混乱も
- 8 「PCR陰性証明書」偽造ビジネスで逮捕されるケースも
- 9 新型コロナのワクチン接種がスタート、第1号はジョコウィ大統領
- 10 インドネシアのコロナ近況をまとめる意味
- 11 【参考】インドネシアのコロナ感染状況に関するブログ記事
陰謀論も!コロナに関するインドネシア庶民の混乱
インドネシアでは、タクシーや配車アプリの運転手に「おしゃべり」な人が多いので、よく会話をすることがあるのですが、ここ最近は新型コロナの話題ばかりです。
ちなみに余談ながら、大統領選挙の時は「どちらの候補が良い?」というおしゃべりがメインでした。
コロナに関する話題としては、「感染者数の増加が、まったくおさまらないねぇ」という嘆きの話が多いです。
しかし中には「そもそも・・・、コロナなんてホントにあるのかね? 俺はコロナなんてホントは無いと思ってるんだよ」なんて陰謀論を展開する人もいました。
インドネシアの運転手に聞く「インドネシアのコロナ」のナマの声
先日の運転手さんも「政府の規制だらけで、もう商売あがったりですわ・・・」と。
ジャワ島では「繊細な表現」や「強調表現」をしたい時は、公用語であるインドネシア語がジャワ語に切り替わります。
ずっとインドネシア語で話していた彼。急にジャワ語で「Ora nang endi-endi loh mas…」と。
運転手が「あ、すみません。わたし今、ジャワ語しゃべっちゃいました。わからないですよね?」と。
「もう、どこにも移動できなくて困っちゃったよ、って意味でしょう?」と答えると、急に、にやぁ・・・として、「なんだ、兄さん、わかるんだぁ」って。
「じゃぁ、ホントは言っちゃいけないこと話しますけど、コロナってね・・」って、コロナ陰謀論を語り始めてくれました。3つの根拠付きで(笑)
インドネシアのコロナ感染状況(ジョンズ・ホプキンス大学の集計)
なお冒頭にも書きましたが、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学の研究チームによる集計によれば、1月13日(水)17:21現在で、インドネシアの状況は以下のように報告されています。
・感染者数:84万6,765人
・死亡者数:2万4,645人
日本のメディア記事を見ると「インドネシアのコロナ感染者数は深刻で東南アジアで最大」と書かれていることがありますが、そもそも人口が約2億7000万と周辺国に比べて圧倒的に多いからという事情もあります。
しかし、なかなか数字がおさまらない状況には、インドネシア政府も相当な苦慮をしている様子がうかがえます。
新型コロナの悪化が引き起こすインドネシアの「墓地不足」問題
1月7日の現地ニュースでは、「新型コロナによる死亡者を埋葬するため、専用の墓地を拡充する作業が進行中」と報じられました。
インドネシアはイスラム教徒が圧倒的多数を占めます。イスラムは土葬のため、コロナの問題が発生する前から「墓地の用地問題」が深刻になりつつあります。そうした最中でのコロナの急増は、この問題に拍車をかけています。
イスラム教徒が「火葬」を選択することは考えにくいですが、インドネシアの イスラム以外のケースを見ると、「火葬」の件数は増えているようです。その理由の多くは「場所がないから」というもの。
このままコロナ問題が悪化を続ければ、イスラム教徒にとっても「火葬の選択」は時間の問題になるかもしれません。
インドネシア政府が打ち出したコロナ規制
インドネシア政府は今まで、具体的な行動制限は打ち出してきませんでした。
どちらかというと「自治体に任せる」というのがスタンスで、たとえばジャカルタ州政府などは、期間を定めた上での自主規制(大規模社会制限の実施:PSBB)が何度も発令されてきました。
しかし年末年始は人々の往来増加が予想されることから、インドネシア政府は強い対策を打ち出しています。いくつかの動きを紹介します。
年末年始の国内移動に関する規制強化
まず1つ目は「年末年始の国内移動に関する規制強化」です。
インドネシア政府の「新型コロナウイルス対策ユニット」が発表したもので、12月19日から1月8日までの規制強化を打ち出しました。規制のメインとなるのは人口の多いジャワ島と、観光客が多いバリ島です。
詳細は以下のとおりですが、国内の公共交通機関を使った移動でも「Rapid Testの証明書は7日間有効」としていたのを「3日」にしたりする等の強化が図られました。
その後「1月9日から1月25日まで」の期間についても適用する(延長する)旨の発表も行っています。
・2020/12/20:年末年始の国内外旅行の新型コロナウイルス対策のための規制強化(新型コロナウイルス対策ユニットによる通達)
・2020/12/22:年末年始の国内外旅行の新型コロナウイルス対策のための規制強化(新型コロナウイルス対策ユニットによる通達:続報)
・2020/12/23:年末年始の国内外旅行の新型コロナウイルス対策のための規制強化(新型コロナウイルス対策ユニットによる通達:海外からの渡航に関する追加措置)
・2021/1/10:新型コロナウイルス対策のための国内移動に関する規制強化(新型コロナウイルス対策ユニットによる通達)
外国人のインドネシア入国を原則禁止
2つ目は12月28日に発出されたもので「外国人の入国は原則禁止」というものです。
入国が許されるのは、「一時滞在許可」(KITAS)や「定住許可」(KITAP)を所有する人のみ。観光やトランジットを目的とする外国人の入国は、一時停止となりました。
当初は「1月14日まで」という規制でしたが、1月11日になると「1月28日まで14日間の延長を行う」という発表を行っています。
・2020/12/28:新型コロナウイルス対策のための規制強化(外国人の渡航の一時停止に関する通達)
・2020/12/31:インドネシアへの 外国人の入国の一時停止に関するインドネシア入国管理総局の回章発出について
・2021/1/13:新型コロナウイルス対策のための規制強化(外国人の入国の一時停止措置の延長)
ジャワ島及びバリ島における活動制限
3つ目は「ジャワ島及びバリ島における活動制限」です。
1月6日に発表されたもので、ジャワ島の全6州およびバリ島の一部エリアに限定し、さらに厳しい規制が行われることになりました。
・2021/1/7:インドネシア政府によるジャワ島及びバリにおける活動制限の発表
インドネシアの各自治体レベルでの独自のコロナ規制も
インドネシア政府からの規制だけでなく、各自治体でも独自の規制が発出されています。
もっとも有名なのはジャカルタ州政府によるものです。
ジャカルタ州政府は当初からコロナ規制に積極的でした。規制強化に後ろ向きなインドネシア政府に対し、時には衝突しているかの雰囲気すらあったほどです。
独自に「大規模社会制限」を実施していましたが、途中からはニューノーマルに向けた緩和策として「健康で安全、生産的な社会に向けた移行期における大規模社会制限」へと変更。2週間の期間を定めた上で、引き続き継続して運用されていました。
ところが、1月に入ると、緩和策を中断し、再び厳しい規制に戻すとの発表が行われました。まずは「1月11日から25日までとしています。
・2021/1/9:ジャカルタ首都特別州における大規模社会制限の実施(州知事の発表)
また、バリ島の州政府は、12月30日から1月2日までの期間について「午後11時から翌朝午前5時までは夜間外出を禁止」と発表。
自治体によっては国内移動でも「他地域から入ってきた人は14日間の自主隔離を」と要請したり。「自動車等の乗り物の乗車人数制限を50%減に」とする自治体もあります。
また年末年始における「県外への移動、県外からの入域の禁止」を打ち出すところも出ています(例:クディリ県)。
東ジャワのマランでは「1/8までは、夜8時以降は門限だよ」というキャンペーンを展開しています。上の画像がそうですが、「門限」という表現が曖昧なことから、ソーシャルメディア上では、その定義をめぐってディスカッションが起きるという始末・・・。
このように、矢継ぎ早の規制発表や変更発表ゆえに周知が徹底されず、現場が混乱するといった事態も発生しました。
・2020/12/29:スラバヤ市における新型コロナウイルス感染拡大防止のための規制
・2021/1/11:東ジャワ州における新型コロナウイルス感染拡大防止のための規制
矢継ぎ早のコロナ規制に現地インドネシアの人々の間には混乱も
突然の発表や、突然の変更、またエリアによって異なる等の問題ゆえ、多くの人たちに混乱が起きました。
ちなみに冒頭で紹介した運転手さんは、もともと12/31に家族で1泊旅行を予定していたそうですが、いきなり数日前にホテルから電話が来て「Rapid Testの陰性証明書はありますか?」と。「取ってないよ」と答えると「証明書が無いとチェックインができなくなりました」と。
運転手は「えー、ならホテルをキャンセルするよ」と言うと「直前期に入ったので返金できません」と言われたそう。
運転手さんいわく「キャンセルできないし、Rapidを受けるには1人あたり30万ルピア(約2,500円)も払わないといけなくて。今日、病院に行ってきたけどさ、もう、ふんだりけったりだよ・・・」って。
コロナ規制をめぐっては、さまざまな現場において混乱が起きています。空港においても「Rapid Test」の健康証明書を持参したものの、「Rapid Antigen」の証明書に変更になったことを知らなかった人が「えーっ」と混乱する等の事態もあったようです。
日本大使館はインドネシアで暮らす日本人に向けて次のように呼びかけています。
当館としては、邦人の皆様が不測のトラブルに巻き込まれることがないよう、できるだけ速やかな情報のアップデートに努めていますが、邦人の皆様におかれても最新の関連情報の入手に努めてください。
「PCR陰性証明書」偽造ビジネスで逮捕されるケースも
これらの規制の中には、公共交通機関の利用に際して「Rapid Test」や「PCR Test」などの健康証明書の提示を義務付けるものもあります。
こうした混乱を受け、便乗した犯罪も摘発されるようなりました。その一つが「ニセ陰性証明書の販売」というビジネス行為です。
1月7日付けの現地CNNが報じています。
逮捕されたのは3人の大学生で、そのうち1人は医学部の所属。インスタグラムを通じ、1通あたり65万ルピア(約5,000円)で販売していたようです。
報道によれば、調査時点では2名が注文して支払いを済ませていたものの、受け取る前の段階だった(つまり公共交通機関のために利用されることはなかった)としています。
しかしこれは、あくまでも氷山の一角に過ぎないという可能性もあります。
新型コロナのワクチン接種がスタート、第1号はジョコウィ大統領
Tekanan darah saya diukur, 130/67 mmHg. Normal. Lalu saya ditanya: pernah terkonfirmasi positif Covid-19, pernah batuk…
一方で明るいニュースもあります。「新型コロナウイルスのワクチン接種がスタートした」という点です。
1月12日には、ジョコウィ大統領が「ワクチン接種の第1号」として、自らのソーシャルメディアで紹介しています。
採用したのは、中国の製薬会社「科興控股生物技術」(シノバック・バイオテック)が開発したワクチンです。
シノバック社製のワクチンをめぐっては、国によって臨床試験の結果が異なる等、効能や安全性をめぐっては不安の声も起きています。
国民向けのワクチン接種は1月13日からとしていますが、大統領みずからが摂取することで不安を払拭する狙いがあるようです。
また「公務員が率先して接種する」という案も出ているようで、イスラム団体も「ハラルである」との見解を示すなどしていますが、私の周りでも不安の声は起きていました。
インドネシアのコロナ近況をまとめる意味
以上、インドネシアのコロナの状況について、近況をまとめてみました。コロナによる世界分断は、いつまで続くのでしょうか。少しでも早い収束を祈るばかりです。
インドネシア国内でコロナ感染が報じられたのは2020年3月です。それ以来、さまざまな取り組みがなされたものの、感染者数の勢いは止まる気配がありません。今回の記事は、2020年末から2021年初までの動きを取り上げたものです。
状況は刻一刻と変わるため、このような記事をまとめても内容はすぐに陳腐化します。しかし、インドネシア駐在の日本人やそのご家族の中には、現地のコロナの状況がつかめずに不安をいだいている方がいるのも事実です。
「少しでも参考になるところがあれば・・・」という願いと、「いつでも参照できるようにまとめておくことは価値があるのでは?」との思いから備忘録としてまとめてみました。何らかの参考になれば幸いです。
【参考】インドネシアのコロナ感染状況に関するブログ記事
こちらの記事も、ぜひどうぞ。